「な、なんでさくらがここに!?」

 オレはさくらに向かって叫んでいた。
 だって玄関はしっかりと施錠していたはずだし……さくらが入って来ることなんて出来るはずがない。
 
「……聞きたいですか?」

 微笑みながらオレを見るさくら。その微笑みはいつもと同じはずなのに何かが違う……。上手く言えないけど、絶対違う。

「いや……やっぱり怖いから言わないで」

 だからオレはそう言う事しか出来なかった。
 
「それが賢明だと思います♪」

 満足気にさくらが言った。
 ハッキリ言ってショックだったね……。今までこの街に来てからオレの周りはおかしなヤツばかり集まってしまって、その中では唯一まともであり、オレの心のオアシスでもあったさくらまでが鍵のかかった部屋にごく自然に登場するような人だったなんてさ。
 
「それで、どうですか? 隣の部屋ですけど、ウチに住みませんか?」

 さくらは微笑みを崩す事無くリルに近づいていく。
 
「え……あの……」

 さすがにリルも戸惑いを隠せない。
 そりゃそうだろう。いきなり現れた見ず知らずの人間の家に住まないかと言われて「はい住みます」なんて言える奴はいない。
 いや、リルだっていきなりウチに住ませてくれとか言う子だから普通じゃないんだろうけどさ。オレはルミナが住んでる家の人間って事でそれ程警戒心は無かったんだろう……多分だけど。
 オレは無理やり自分の中でそう結論付けた。

「私はさくらって言います」
「あ、ボクはリルです」
「それで……どうですか?」

 リルはオロオロとして答えられない様子だ。
 
「なんでここに居るかはもうどうでもいい。リルをオレの家に住ませてやるのも無理だ。だけど、なんでさくらが住ませてやろうと思ったんだ?」
 
 オロオロし続けるリルに変わってオレがさくらに質問する。
 この際、本当に、何故、どうやってさくらがここに来たのかはどうでもいい……怖くて聞けないし。それに部屋に来てすぐにリルを住ませると言い出した事から、いつからかは分からないけど、きっと結構前からオレ達の話を聞いていたんだろう。それもどうでもいい。ただ、何でリルを自分の部屋に住ませようと思ったのか。それをオレは知りたかった。
 ルミナを簡単に住ませわてしまったオレが言えた事じゃないが、普通は他人と一緒に住むなんて出来る事じゃないだろう。
 
「だって可愛いじゃないですか♪」

 オレの問いに対してのさくらの返答は想像を超えた……というか想像すら出来ないような内容だった。

「そ、それだけの理由で……?」
「そうですけど。何か?」

 何を当たり前の事を、といった表情でオレを見るさくら。
 さすがにオレは引きつった笑みを浮かべてしまった。ルミナでさえ口を開けてポカンとしている。 

「で、どうするんですか? 勿論住みますよね」

 リルに向きなおるとさくらは有無を言わさぬ勢いで詰め寄った。
 
「あ、あの…………あぅ」

 リルは訳も分からずにオロオロするばかりだ。なんか奇妙な動きをしている。

「ああっ! もう、可愛過ぎます! 住みますよね? というか住みなさい」
「んきゅうっ…………」

 そんなリルにいきなり抱きつくさくら……しかも、最後は命令だ。
 ああ……オレの中のさくらが音を立てて崩れ……いや、そんな生易しい表現じゃ駄目だな。何て言えばいいんだ……粉々。そうだっ、オレの中のさくらが爆破されて粉々に吹っ飛んでしまった。
 さくらは抱きつきながらリルの頬に頬擦りしているし、リルは抵抗も出来ずされるがまま、ルミナはひたすらポカ〜ンとしている。
 何なんだよ、この状況は……。
 このカオスな空間をオレにどうしろってんだよ。
 誰か助けてくれ! 

「ナオくんっ、呼んだ!?」

 その時、またもや部屋の扉が大きな音を立てた。
 そこから現れたのは真奈美さんだった。

「ま、真奈美さん!? 何でここに!?」
「ナオくんの助けを求める叫びが聞こえたのっ!!」

 なっ……そんなバカなっ!
 心の叫びって……心の、だから聞こえるもんじゃないだろ!?

「これもナオくんと私の愛の力だねっ!」

 ウインクしながら真奈美さんが言う。
 
「そんな物は存在しませんっ!!」

 オレは全力でそう叫んだ。
 

 ☆ ☆ ☆

「はあ…………」
「はぁ〜…………」

 翌日、教室の自分の席に腰を下ろしたオレとルミナは同時に溜息をついた。

「どうしたんだ。ハムナリ、それにルミナちゃんも」

 前の席に座っているショウが話しかけてくる。心なしかルミナの名前の方が力が入っていた気がする。まあ、どうでもいい事だけど。

「朝から鬱陶しいほど元気無いわね」

 隣に座る悠も加わる。

「それにさくらは今日は一緒じゃないの?」
「まあ、色々あってな。さくらならそのうち来るよ」
「最悪だぜ〜……」

 返事をするのも面倒だったが答えなきゃ悠に何をされるか分からないし、適当に答えておく。ルミナは元気無く呟いていた。
 
「おはようございます」
「おはようっ、さくら」

 教室に入ってきたさくらが悠と挨拶を交わし悠の前に座る。
 ちょうどチャイムが鳴り、それと同時に担任の香奈ちゃんが入ってきた。

「みんな〜、このクラスにまたまた仲間がやってきたわよ〜!」

 教室に入ってすぐ、香奈ちゃんは大声で告げた。

「香奈ちゃん! それって女の子ですか!?」
「ええ。喜びなさい男子! ルミナちゃんとは別のタイプの超可愛い女の子よ」

 うおおぉぉぉ、と教室中の男子が叫ぶ。

「ハムナリどうしよう? 俺もついに彼女持ちだぜ!?」

 何か、ここまでのやり取りって凄い既視感。
 というか、ルミナが来た時と全く一緒じゃないか……。

「そうだな。羨ましいよ」

 ショウに対するオレの返事もおざなりだ。

「じゃ、入ってきて〜!」

 呼ばれて教室に入ってきた転校生は教壇の所まで歩き、生徒達の方へ向きなおり自分の名前を告げた。

「今日からこの学園に通うことになったリルです! よろしくです!」

 そう言って一礼する。
 なんというか、まあ…………そういう事だ。
     


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