「キュッキュッ……」
「うなぁぁぁ〜」

 オレにじゃれついてくる二匹の動物。
 もとい、ルミナとリル。
 威嚇しあう二人をなだめていたんだけど……気付いたら何故か、こうなってた。
 二人に擦り寄られて身動きがとれない。

「モテモテですね〜! これぞ男冥利に尽きるって感じですか?」
「そ、そういう状況じゃねえからっ!」
「…………か、かわいい」
「…………ジィ〜」

 冷やかしてくる二人。
 そんなこと言ってないで助けてほしいんだけどな……。
 それより……

「……なあ」

 オレは二人に向かって話しかける。
 
「なんですか?」
「…………?」

 冷やかしを中断して聞き返してくる紗綾、無表情で首を傾げる琴葉の頭上にはクエスチョンマークが見える気がする。
 まあ、そんなことより……気になることがある。
 
「あのさ……ずっと気になってたんだけど」

 それは気のせいでもなんでもなく、事実で……二人とも何も言わないのが不思議なんだけど……。

「……一人多くね?」
  
 最初から共に行動していた琴葉、紗綾の二人。
 その後、見つけたルミナとリル。
 そして、もうひとつ……ずっとオレ達を見つめている視線があった。
 
「そ、そそそ、そんなこと言って驚かそうとしても駄目ですよっ!? そ、そんな手には……引っかかりませんから!」
「………………?」

 最初、捜査を始めたときに怖がっていたことを知っているオレが自分を驚かそうとしていると思ったらしい紗綾は必死に強がりを言っていた。
 琴葉も意味が分からない、といった様子だ。
 
「二人の後ろ……なんだけど」

 オレは琴葉達の後ろに向かって指を伸ばす。
 
「う、うう、後ろ……?」

 恐る恐る振り返る紗綾。琴葉も同時に後ろに顔を向けた。
 
「…………」
「…………」

 ――無言。
 二人とも後ろを見て声を出す事が出来ないでいた。
 ゆっくりとこちらに顔を向ける紗綾。
 
「……見たか?」
「は、はい」
「何か居たろ?」
「な、何かっていうか……アレって」

 オレと紗綾が信じられないような物を見た、といった感じに話をしていると、

「…………かわいい」

 琴葉がルミナやリルを見た時と同じ感想を口にした。
 
「あ、ああ、あ麻生さん……ですよね?」
「そ、そうとしか見えないだろ?」

 やっぱり言ってみても、まだ信じられなかった。
 だって……そこに居る麻生さんは、

「あ、あれって……もしかして……」
「う〜ん……多分、キツネ……かなぁ?」
 
 麻生さんにも……ルミナやリルと同じく動物の耳と尻尾が生えていた。 
 尖った耳。そして尻尾。それらの色からして多分キツネなんだと思う。
 
「とりあえず……さ」
「な、なんですか?」
「一度部屋に戻って、これからどうするか話し合わないか?」

 オレはそう提案した。
 このまま動物化した三人を連れて動き回るのは得策ではないと思ったから。だって……鬱陶しいんだもん。こんなんじゃ探し回ることも困難だ。
 
「そうですね……そうしましょう。お姉ちゃんもそれでいいよね?」
「…………いい」
「良し! じゃ、オレはこの二人連れてくから琴葉と紗綾は麻生さんをお願い」
「わ、わかりましたっ!」
「………………おいで」

 言って手招きする琴葉のその行動は動物に対するそれだった。


 ☆ ☆ ☆

 部屋に戻って……ルミナとリルがオレの膝の上を取り合って喧嘩したりしたけど、今は二人で半分ずつ使って乗っていた。
 膝の上に感じる暖かくて柔らかい感触……動物みたいになってるとはいえ、正直恥ずかしいやら嬉しいやら、何かもう混乱気味です。
 そんなオレを見て、ニヤニヤしている紗綾。
 
「なんか嬉しそうですね! なんなら私達出て行きましょうか?」
「へ、へへ変な気を使うなっ! そ、それより――これからどうするっ!?」

 オレは恥ずかしさを隠すように話を始めた。
 
「強引に話を変えてきましたね〜!」
「う、うっせ……それで、どうするんだよ?」
「う〜ん……そうですねぇ。お姉ちゃんはどうしたらいいと思う?」

 琴葉に丸投げですか。
 
「…………いい子」

 琴葉は、隣に座って大人しくしている麻生さんの頭を撫でていた。
 とても素晴らしい笑顔で。
 ……なんか頭を撫でて満面の笑みを浮かべる琴葉も、撫でられて気持ち良さそうにしてる麻生さんも、なんて言うか……こんな二人は二度と見れないんじゃないかって思う。紗綾も驚愕の表情で二人を見る。
 
「お姉ちゃ〜ん」

 再び呼びかける紗綾。

「――っ!? …………なに?」

 顔を少し赤くして麻生さんを撫でていた手を後ろに隠す琴葉。
 ヤバイ……なんか凄い可愛いって思ってしまった。
  
「お、おおお姉ちゃん!」
「…………なに?」
「も、もう一回! もう一回今の顔を! 写真撮るから!」

 紗綾はどこからか取り出したデジカメを手に琴葉に迫った。

「……なんの……こと?」

 うわぁ……今の、無かった事にする気だぁ!!
 
「お、おお、お姉ちゃんのあんなに可愛い顔を撮り逃すなんて妹として一生の不覚だよ! てゆーかラブだよ! さっきのお姉ちゃんほんとに可愛すぎだよっ!」

 もう、なんつーか収まらない衝動……って感じか?
 
「だからもう一度さっきの顔を――!!」

 その時、ボンッ、という感じで紗綾の身体が煙のようなものに包まれた。

「…………!?」
「なっ――!?」

 オレも琴葉も絶句。
 そして、煙が薄れていき、そこに現れた紗綾は――

「もきゅっ?」
 
 ウサギ……だった。
 紗綾がウサギってのには若干違和感を感じたけど、それより――

「な、なんで急に……」
「…………なにかいる」

 紗綾を見て驚いていたオレも琴葉のその言葉に我にかえる。
 何か居るってことは……オレ達以外にってことだよな。
 それって……

「もしかして……犯人か?」
「………………わからない」

 でも、そうとしか考えられないよな。
 今、目の前で紗綾が変化させられたんだし。

「…………そこ!」

 言って少し開いていたクローゼットの扉に、木刀を投げた。
 木刀は寸分の狂いも無く、隙間に吸い込まれていった。

「――――ぬはあっ!」

 その中から、そんな呻き声が聞こえた。 


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