「見るも無残な姿で発見された人って……もしかして」

 オレは横たわるルミナを見て、紗綾に話しかけた。

「はい……こんな感じだったみたいです」
「た、確かに、これは……無残と言うか悲惨というか――あっはははは!」
「……くっ、あははははは」
「二人とも……笑っちゃ…………駄目……」
  
 シリアスにいこうと思ったが無理だった。
 今のルミナの姿を見て、たまらず笑い出したオレ。つられるように紗綾も笑う。そんなオレ達に注意をする琴葉も目に涙を溜めて笑うのを必死に我慢していた。

「――――んにゃっ!?」

 オレ達の笑い声でルミナが目を覚ました。
 
「…………何でアタシを見て笑ってるの?」

 そばで笑うオレ達を見て不思議そうな顔。
 オレを含めて三人ともルミナから目を逸らす。今、まともに見たら、きっと、多分、オレは爆笑してしまう。
 ルミナは自分の身体をペタペタ触って確かめている。
 ……でも、そんな風に確かめても……多分オレ達の笑っている理由はわからないだろうと思う。

「とゆーか、なんでアタシこんなカッコなの!? も、もしかして……ナオ」

 頬を赤らめてオレを見るルミナ。
 そう――今、ルミナは身体にバスタオルを巻いただけの格好をしていた。それも紗綾と琴葉によって巻かれたもので、オレが湯船から抱え上げたとき、ルミナは何も身に着けてなかった。メチャクチャビビッたけど、どうにか見ないようにして二人に『何か着せてくれ』と頼んだ訳だ。
 ルミナは……先程以上に念入りに自身の身体を確かめていた。

「あれ? ……コレ、なに?」

 言ってルミナが手にしていたのは――

「って――コレ、し、しし、尻尾ぉ!?」

 そうなのだ。今、ルミナには黒色のネコの尻尾が生えていた。ルミナはまだ気付いてないがご丁寧にネコ耳まで。
 最初は誰かのイタズラかと思ったが、驚いたことに……この尻尾と耳、バスタオルを着せた紗綾と琴葉が言うにはルミナの身体から直に生えているらしい。
 それだけなら、まだ良かったんだ……それだけなら……。

「って、み、みみもっ!? う、うにゃあぁぁぁんっ!!」

 あ、悲鳴までネコっぽくなってる。
 
「ど、どうなってるの!? ねえ、ナオ!!」

 その時、ルミナの顔が質問と共に、どアップでオレの前に現れた。
 
「――っ!? ぶふ――っ!! あ、あはははは」

 笑ってしまった。
 耐えられなかった。
 だ、だって――

「な、なんで笑うのっ!?」
「だって、お前……くっ、あっははははは!」
「うにゃあぁぁぁっ! 何!? なんなの!?」
「お、お前……顔、鏡で見てみろよ」
「…………顔?」

 怪訝な顔で鏡へ向かうルミナ。
 そして、鏡で顔を確認すると、

「にゃあぁ――――っ!」

 悲鳴を上げた。
 
「な、なにこれ!? なんで? 尻尾とか耳とか、え、なんで!?」
 
 鏡の前から戻って来たルミナは混乱していた。話し方もなんかちぐはぐだ。
 まぁ……混乱するのも分かる。
 起きたらネコ耳と尻尾が生えてて……おまけに……顔には左右に三本ずつ計六本の髭がピョコンと生えているんだから。
 
「なんで……ヒ、ヒゲ……」

 ルミナは髭の生えたほっぺたを両手で覆い隠し絶望的な表情をしていた。
 そりゃショックだろうな……女の子なのに髭なんてさ。いくらルミナとはいえ一応女の子なんだから。  

「ナ、ナオォ〜…………」

 涙目で見つめてくるルミナ。

「い、いや……あのさ……それはそれで、か、可愛いと思うぜ?」

 そんな目で見つめられると……何故か顔が熱くなった。
 オレはルミナから目を逸らし、頬を掻きながら言った。

「う、うにゃっ!? か、かわ……ふしゃぁ――っ!!」 
「な、なんだよ?」

 威嚇された……耳と尻尾を逆立てて。
 ルミナはオレと距離をとった。そのまま風呂場を走って出て行ってしまった。

「…………」

 オレはルミナが出て行った方向を呆然と見つめていた。

「いいんですかぁ?」

 紗綾がオレの肩を叩く。

「なにが?」
「…………追いかけなくても……いいの?」

 続けて琴葉。

「……はっ!? そ、そうだよ。追いかけないと!」

 二人の言葉に我を取り戻したオレは脱衣所へ走った。
 幸いルミナは遠くに逃げずに脱衣所に居た。それも……脱衣所の服とかを入れておくカゴにすっぽりと収まっていた。どこか、ほわ〜ん、とした表情で。

「ルミナ……どうしたんだ? そんなところで……」

 オレは声をかけて近づいていく。

「ふしゅぅ〜っ!!」

 ルミナは眼を尖らせ牙を剥いて威嚇……いや、牙とか無いんだけどね。  
 ただ凄く警戒してるってことは伝わってくる。
 ネコってのは狭い所とかが好きだけど……それでこんなところに入ってるのか?
 なんか時間がたつにつれドンドン猫化してないか?
 いや、そんなことより……オレのこと分かってないのか?

「ルミナ……オレだ。ナオヤだよ。分からないのか?」

 これ以上警戒させないよう距離を保ったまま問いかける。
 
「んにゃ?」

 首を傾げるルミナ。
 本当にネコっぽいぞ……。

「ネコになっちゃいましたね。ルミナさん」
「…………かわいい」

 紗綾がルミナを見て言う。琴葉は無表情ながら……眼を輝かせて、ほのかに顔が赤くなっていた。
 
「…………ん? おわっ!?」

 いつの間にかルミナが近づいてきていた。
 そして、ルミナはオレの身体に顔をこすり付ける。
 目を細めてそうしてるルミナを見るに、どういうわけか警戒は解いてくれたようだ。
 
「な、なあ……紗綾」
「なんですかぁ?」
「服……貸してくれないか?」

 顔だけじゃなくて……いろんな『物』がオレの身体に当たる。それはまぁ、ネコだと思い込んでなんとか我慢しよう。だけど、タオル一枚じゃさすがに目のやり場に困る。

「分かりました。なら、とりあえず部屋に戻りましょう」
「そ、そうしてくれると助かる……」
「んにゃぁ〜」
 
 必要以上にくっついてくるルミナにどぎまぎしつつ、紗綾の部屋に向かった。

「…………か、かわいい」
 
 琴葉はずっとルミナから目を離せない様子だった。


BACK←  目次  →NEXT