深夜――
 女子寮の食堂。

「ここには何もないな」
「この前、麻生さんが調べてくれた時も何の異常もありませんでしたよ〜」
「…………うん」

 その食堂にオレ、柊姉妹の三人は居た。
 紗綾達の話を聞いたあとすぐに犯人を見つけてやると張り切って部屋を飛び出していったルミナ。そんなルミナを追いかけたリル。この寮の構造を知らない二人だけでは心配だと麻生さんもルミナとリルの二人を追った。
 取り残されたオレ達三人。
 麻生さんがついてれば何かあっても心配はいらない……と琴葉に紗綾が口を揃えて言ったので、どこに行ったか解らない三人を追うのは止めて、オレ達も何か探してみようと、この食堂までやってきた。

「そういえば……異常なことって?」
「はい?」
「だから事件。異常なことってどんなことなんだ?」

 深夜の薄暗い食堂が怖いのか琴葉にしがみ付いている紗綾に尋ねる。
 
「え、異常なことですか? それは色々ですよ」
「その色々が知りたいんだけど……」
「ん〜……そうですね。例えば……」
「うん」
「お風呂で視線を感じたり、夜中寝てる時に横に人の気配がしたりは寮に居る人のほとんどが感じてます」
「へぇ〜……他には?」

 紗綾、この子はどうやら喋るのがほんとに好きらしい。今は怖がって琴葉にしがみ付いていたのも忘れた様子で顎に指を当てオレの質問に答えている。
 オレは相槌を打って続きを促した。

「他にはですねぇ……部屋に居たら急に肩を掴まれて振り返ったんだけど誰も居なかったとか、毎日変な声が聞こえるとか」
「それ……心霊現象じゃね?」

 まんま心霊現象だよな。心霊とか信じてないけど……。

「し、しし心霊っ!? お、お姉ちゃんっ!」

 オレが言うと怖いのを思い出したのか震えて琴葉にしがみ付く。

「…………大丈夫」

 紗綾の頭を撫でてあやす琴葉。
 
「それで全部か? 事件って」
「え〜っと……あっ! そういえば、まだありました!」
「どんなこと?」
「はい……寮に住む先輩なんですけど、その日の夜に部屋で勉強してた時、突然隣の部屋から物凄い悲鳴が聞こえてきたらしいんです」
「悲鳴? もしかして……犠牲者とか出てるのか?」
 
 誰かのイタズラ程度のものだと思ってたから、ちょっとビックリした。
 もし犠牲者とか出てるなら大変な事件じゃないか?

「それで先輩は隣の部屋に行ったらしいんです。でもいくらノックしても呼びかけても返事がなかったみたいで……他にも悲鳴を聞いて駆けつけてきた人達と協力して扉を破って部屋の中に入ったんです」
「そ……それで? どうなったんだ?」 

 紗綾の話し方も妙に神妙な感じがする。
 オレは唾を飲み込みどんな事が起こったのか聞いても驚かない覚悟を決めた。

「はい……その部屋に住む人は……見るも無残な姿で発見されました」
「見るも無残って……し、しし、死んだの――」
『みきゃああぁぁぁぁっ!!』
「――か? って、え? ルミナッ!?」

 その時、どこからかルミナの叫び声が聞こえてきた。
 
「え――今のってルミナさんの声ですか!?」
「ああ……絶対ルミナだ」

 何度も聞いたことのあるルミナの叫び声。間違いないはずだ。
 
「ど、どこから聞こえてきた!?」

 オレは食堂を飛び出してキョロキョロと周りを見渡す。
 薄暗い廊下……ルミナの姿は見当たらなかった。
 声の感じからして近くには居ないのは解ってたけど……確認するとさらに焦ってしまう。

「多分、浴場の方から聞こえました」
「浴場!? 案内して!」
「は、はいっ!」

 紗綾を先頭にして浴場まで走る。
 浴場まではかなりの距離があった。
 薄暗い廊下をあちこち身体をぶつけながら走った。

「ルミナッ!?」
「ルミナさん?」

 浴場に飛び込む。
 更衣室には誰の姿も無かった。
 ……ということは浴室だ。

「先に……見てきてくれるか?」

 さすがに風呂に入ってるってことはないと思うけど……一応紗綾と琴葉に先に行ってもらうことにした。
 
「…………わかった」
「わかりました!」

 そう言って二人は浴室へ向かった。

「きゃあぁぁぁっっっ!!」

 すぐに紗綾の悲鳴。

「ど、どうした!?」

 オレも浴室へ入った。
 
「あ、あれ……ルミナさんが……」

 そこには湯船を指差し床に座り込んでいる紗綾と、その後ろで湯船を見つめて立ち尽くす琴葉。
 オレはゆっくりと湯船に近づいていく。
 
「――ル、ルミナッ!?」

 湯船まであと一歩、湯船に浮かぶ金色の髪。
 ――ルミナが湯船にうつ伏せになって浮かんでいた。
 
「だ、大丈夫かっ!?」

 オレは湯船に足を入れ、ルミナを抱え上げた。
 ……浴室にはルミナと一緒に居たはずのリルと麻生さんの姿はなかった。


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