私立宮上学園女子寮。 
 オレ達の乗った車は、その建物の前に停車した。
 説明もロクに聞かずに連れて来られたけど……こんな所に一体何の用があるんだ?
 
「では、こちらへ」

 車を降り、寮へ向かって歩き出すメイドさんと琴葉。
 オレ、ルミナ、リルの三人も急いで車を降りる。

「女子寮なんて……オレは入れないんじゃないか?」

 先を歩くメイドさんの背中に向かって問いかける。
 メイドさんは立ち止まり、ゆっくりと振り向き、

「問題ありません。今の大坪様はどう見ても女性です」

 言われて自分の姿を思い出す。
 そういえば、オレ……女物の制服着てたんだった。
 情けない自分の格好を見て軽く落ち込む。二度と……二度とこんな事しないって思ってたのに。

「ところでさ……こんなとこに何の用なんだ?」

 ずっと気になっていたことを尋ねる。
 メイドさんは冷たい視線をオレにぶつけてきた。

「あなたは先程の説明を聞いてなかったのですか?」
「う……は、はい」

 メイドさんは大きく息を吐き出し、オレの質問には答えずに歩き出してしまった。

「あ、あの……?」
「まずは目的の場所まで移動します。説明はそこで」

 今度は止まらず、振り返らずメイドさんが答えた。
 それ以上は何も聞くことが出来ず、ただ黙って着いていった。
 暫く歩き、階段で三階へ。
 沢山の扉が並ぶ廊下。その中のひとつの扉の前に立つメイドさん。

「着きました」

 オレ達にそう短く告げてから扉をノックする。
 
「は〜い? 開いてますよぉ」

 ノックに気付いたらしい部屋の住人の可愛らしい声が扉の向こう側から聞こえてきた。
 
「失礼します」

 言って、扉を開け部屋の中に入っていくメイドさん。
 みんなも続いて入っていく。

「…………」

 オレは扉の前で立ち尽くす。
 入っていいものかどうか……一応、ここは女子寮で、そんで住んでるのは当然年頃の女の子なわけで……。
 大体、オレは男なわけで……。
 
「なにしてんの〜?」

 立ち止まりうじうじ悩んでいると、いつの間にか戻ってきていたルミナに話しかけられた。ルミナのオレを見る目は、まるで変な奴を見るような目だった。
 ……確かに怪しいけどさ。女装して女子寮の部屋の前で頭を抱えて悩んでる奴なんて。

「すっごい……怪しいよ?」

 あ……眼つきだけじゃなくて声にまで出しやがった。
 
「あ、ああ……そうだな」

 オレは恐る恐る部屋へと足を踏み入れた。
 
「お姉ちゃ〜ん! 会いたかった会いたかった会いたかったよぉ〜! 元気だった!? 元気だったよね!? 私は元気だったよ心配しないで〜! あっ、麻生さんも久しぶり〜相変わらずクールだね!」

 と、オレ達より多分ちょっと年下かなってくらいの女の子が琴葉に抱きついて一人で喋っていた。話の内容から察するに、この子は多分……琴葉の妹であるらしい。ついでにメイドさんは麻生さんという名前のようだ。
 この子は、琴葉とは対照的に良く喋る子みたいだ。
 どことなく……ほんとにどことなくだけど琴葉に似てる気もしなくもない。髪は肩ぐらいまでしかないし、元気一杯の子どもっぽい表情で、とても似ているとは言い難いけど……雰囲気って言うのかな、それがほんとにどことなく似ている気がした。
 
紗綾さや…………元気みたいで……よかった」

 抱きつかれながら、どこか嬉しそうに琴葉が言う。
 
「やっぱり心配してくれてたんだね! 私もお姉ちゃんに会えなくて寂しかったよ〜あっもちろん麻生さんもだよ」
「それは、ありがとうございます」
「あれぇ? そっちの人達は誰なのかな? もしかしてお姉ちゃんと麻生さんが電話で言ってた人!? ほんとに来てくれたんだぁ! ありがと〜! あっ、私のことは紗綾って呼んでくださ〜い! それでそれで――」

 凄い勢いで喋る子だな……。
 
「紗綾様……説明しますので少しだけお静かに。皆様も、こちらへ」

 まだまだ話し続けそうな紗綾を制し、部屋の入り口で佇むオレ達三人を部屋の中へ招き入れた。
 
「あの……詳しく説明して欲しいんですけど」

 麻生さん、琴葉、琴葉に抱きつく紗綾の三人の向かい側に腰を下ろし、尋ねる。

「先程説明したとおり……」

 麻生さんが話し始める。
 ……先程って、オレが聞いてなかった時のことだろう。

「紗綾様は琴葉様の妹なのですが……」

 何やら言いよどむ麻生さん。
 ……言い難い話なのだろうか? 
    
「私とお姉ちゃんはお母さんが違うんだ〜。私はいらない子だったんだよ。柊の家にはお姉ちゃんが居るかし……だから私は全寮制のここに入学させられたの。家からも離れてるしね」

 相変わらず無邪気な子どもの様な表情で明るく話す紗綾。
 ……なんか、そんな笑顔でする話じゃないんじゃないか?
 薄々気付いてたけど……琴葉ってお嬢様だったのか。メイドの麻生さんが居たり、あんな広い部屋がある家に住んでるんだもん、当然か。
 
「でもね、麻生さんや柊の家に仕えてる人のほとんどは良くしてくれてたし、あっ今でもだけどね。お姉ちゃんだって良く電話とかしてくれるし……だから、全然不幸とかってわけじゃないよ? ここはここで凄く楽しいしね」
「……紗綾は…………大事な妹」
「きゃぁ〜! ありがと、お姉ちゃん! 私もお姉ちゃん大好きだよ〜!!」

 琴葉に頬擦りする紗綾。
 ……確かに、姉妹の仲は、見てて微笑ましくなるぐらい良いようだ。

「ん……でもそれって……オレ達が連れて来られたのと関係あるのか?」
「え、ないよ? 私のこと説明しただけだし。それより『オレ』ってことは、あなたが大坪さんですかぁ!? うわぁ……ほんとに女の子にしか見えな〜い! すごいすごい! ってゆーか、私、男の子部屋に入れたのなんて初めてだよ〜!」

 無いのかよっ!?
 つーか……オレが男ってことは知ってたのか。

「あの……それで、オレ達が連れてこられた理由は?」
「はい。実は最近、この学園や寮で女生徒が襲われたり、奇妙な出来事が起こるという事件が多発しています。私が調査したのですが何も解らず……」

 と、麻生さんが説明をしてくれた。

「そこで、琴葉様の学園で様々な異様な事件を解決している大坪様達に協力して頂きたく思いまして」

 な、なんでそれを知ってるんだ? オレ達がそんなことをしてるってのは真奈美さんや一部の関係者だけだってのに……。

「どうでしょう、ご協力頂けますか?」

 協力って……いきなり言われてもなぁ……。

「お願いしま〜す! 私の友達も被害にあってるんですよ。私も最近、ずっと誰かに見られてる気がするし」

 と、紗綾。

「誰かに見られてるって……ストーカーじゃね?」

 この子なら、そんな奴が居てもおかしくない。

「それは有り得ません。そんな人間なら私が見逃すはずはありません」

 言い切る麻生さん。
 確かに……この人ならストーカー程度すぐに見つけて退治してしまいそうな気がする。

「アタシはいいぜー! 面白そうだし!」
「ありがとーっ!」
「ボクもです。困ってる人は放っておけません」
「きゃぁ〜、ほんとありがとね〜!」

 そう言って引き受けるルミナとリル。その二人の手を握ってお礼を言う紗綾。
 
「…………」

 リルの手を握り締めたまま無言でオレを凝視する紗綾。
 というか、部屋に居る全員がオレを見ていた。
 ……これ、断ったら悪者っぽいじゃねーか。

「……わかったよ。協力します」
「ありがとーっ……はっ、初めて男の子に触っちゃったぁ、きゃぁ〜っ! なんかドキドキするぅ〜っ!!」

 答えると、ルミナ達のときと同じく手を握ってきた紗綾。そして一人で盛り上がっていた。
 
「…………ありがとう」

 琴葉もオレ達に向かっていった。その横で麻生さんが頭を下げていた。
 はぁ……やるしかないか。
 この格好は嫌だけど……だから、さっさと事件を片付けて着替えよう。
 
「うあぁ〜! どうしよどうしよっ! ドキドキが止まらない〜!」

 無口な琴葉もだけど、この子の相手も大変そうだ。 


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