| バンッ、と大きな音を立て、部屋のドアが開く。 「うにゃあ〜〜っ! 朝だぜ――――っ!」 部屋に入ってきたルミナは叫びながらオレから布団を引っぺがした。 ……朝から無駄に元気で迷惑なやつだ。 目を擦りながら上体を起こす。 「おはようっ!」 目の前に満面の笑みのルミナの顔があった。 「おはよう……つーか、何でそんなに元気なんだよ……」 「昨日一日寝てたから力が有り余ってる感じ?」 「いや……聞かれてもね」 「だから! 今日は、昨日と今日の二日分張り切っていこうと思うんだぜーっ!」 はぁ……いつもうるさいのに二倍かよ……。 風邪が治ったのは良かったけど……。 「……着替えるから出てってくれない?」 立ち上がり、引き剥がした布団を持ったままのルミナに向かって言う。 「あれ〜、恥ずかしいのかな〜? ……昨日アタシのこと覗いたくせにぃ」 下からオレの顔を覗くように見てニヤニヤしている。 「き、昨日のは事故だろっ!?」 「うんうん。事故だよね〜、事故じゃね〜、しょうがないよね〜」 「ああもうっ! ごめんって! 何回も謝ってるだろ! もう出てけ!」 オレはルミナの襟を掴み強引に部屋から追い出した。 くっそ〜……からかいやがって……。 オレは文句を言いながら着替え始めた。 ☆ ☆ ☆ 今日は二人での登校だった。 ……昨日からリルに避けられている気がする。嫌われたのかなぁ……とか思って、ちょっと落ち込む。 「はぁ…………」 下駄箱で靴を履き替えると、溜息がこぼれた。 「昨日のこと、まだ気にしてんの〜?」 そんなオレに気付いたルミナが声をかけてくる。 「いいじゃん。可愛かったんだから!」 「そ、そういう問題じゃないって……」 全然嬉しくない慰め方をしてくれるルミナ。 教室に向けてトボトボと歩く。 「ん……何か騒がしくないか?」 教室が近づくにつれて生徒達の騒ぐ声が聞こえてくる。いつも騒がしい我がクラスだけど今日はいつもより騒がしいみたいだ。 「ほんとだね……行ってみようぜー!」 ルミナも同じように騒がしいと感じていたらしい。朝から元気なルミナはオレを置いて走っていってしまった。 ルミナに少し遅れて、オレも教室の中へ入った。 「……な、なんなんだ?」 入った瞬間、教室の異様な光景に驚愕する。 教室の中は、普通に入っていけないほど生徒で埋め尽くされていた。 勿論、このクラスの生徒だけでこんなことになる筈はない。他のクラスの生徒、それに一年や三年までいる。 教室の隅のほうに居たルミナと悠を発見し、オレは生徒達を掻き分けなんとか二人の元まで進んだ。 「ど、どうなってるんだっ!?」 二人に尋ねる。 「ナオは知らない方が良いと思うよ。ねっ、はるちん?」 「えっ!? う、うん。そうね」 二人とも妙に焦ったように答えた。 ……なんなんだ? 「はあ? なんでオレは知らない方が良いんだよ?」 「そ、それは……」 「あ、あんまり気にしないほうがいいぜー!」 なんだか言い そして、気付いた。 教室に集まる生徒達はある場所を中心にして広がっていることに……。 そのある場所とは……オレの記憶が正しければショウの席の筈だ。 「ちょっと行ってくる」 「あっナオ!」 「あんた……後悔するわよ」 そこに向けて歩き出したオレの背中にルミナと悠、二人の引き止める声がぶつけられたが、オレは止まることなく前に進んだ。 ――後悔した。 うん、ほんと……来なきゃよかった。 「お前……何してんの?」 オレはショウの机に並べられた物の一つを手に取り尋ねる。 「おう、ハムナリ! お前も買うか?」 「買うとか買わないとかじゃなくて、何やってんの?」 「めちゃカワイイだろっ!? その子さ、須藤達の働いてる店に昨日から入った新人さんなんだよ! 一日でこんなに人気出てるんだぜ?」 「…………マジかよ」 オレは手に持った物――昨日の自分の働く姿。つまりメイド服を着た女装姿のオレが写った写真を眺めながら呆然とつぶやく。 つーか、これ、いつの間に撮られてたんだ? しかも販売って……完全に肖像権の侵害じゃね? 「お前も要るか? 安くしとくぜ!」 「いらねーよ……」 オレは手に持っていた写真を机に戻す。 どうしようか……販売するのを止めたとしても売った分は回収できそうもないし……かといって、このままばら撒かれるのも精神的にキツイよな。 「こ、これも下さいっ!」 その時……聞いたことのある声が聞こえた。 そちらに目を向ける。 「何してんの…………リル」 「は、えっ!? ナ、ナオヤさん!?」 声をかけると驚いたように振り向くリル。 その手には……アルバムが握られていた。 「……買ったの?」 「え、えと、その……ごめんなさいっ!」 リルは謝って走り去ってしまった。引き止める間もなく……。 「いや〜、まさかリルちゃんにそっちの趣味があったとは驚きだよなっ!」 驚いていると言うか妙に嬉しそうな表情でショウが言う。 「そっちの……趣味?」 「だってリルちゃん……さっき買ったのでこの子の写真、全種類なんだぜ?」 ぜ、全種類……なぜに? オレってリルに嫌われたんじゃなかったのか……避けられてたし。 嫌われてなかったってことかな? ……嬉しいけど、なんか複雑な気分だぞ。 ☆ ☆ ☆ 「あ〜……あの子のシフト聞いときゃよかった〜……ここの生徒じゃないみたいだし」 授業中、ショウがなにやらぶつぶつ言って悩んでいた。 「次、いつ入ってんのかなぁ……今度あったら情報聞き出さなきゃな〜」 もう二度と会うことはないと思う……。 「なあハムナリ、どう思う?」 「……どう思うって?」 「だから! 次はいつ会えると思うんだ!?」 「知るか! つーか、どうでもいいよ」 「お、おまっ、なんだよそれ! あの写真見て可愛いと思わないのかよ!?」 「思いたくない」 ふざけんな……なんで自分の写真見てそんなこと思わなきゃいけないんだよ。 「お前……ありえねぇよ。あの子は一日にしてファンクラブ的なものまで出来つつあるんだぞ!?」 何それ……初耳なんですが……。 「はぁ……ファンクラブ? マンガじゃあるまいし……」 「いや、マジだぜ。三年の伊橋がリーダーで作ろうとしてるらしい」 伊橋って……あのキザでキモいヤローか。 なんて迷惑なことしてくれやがるんだ。 「あんた……これはまたあのカッコで働かないと暴動とか起きかねないわよ」 授業が終わって休み時間。話を聞いていたらしい悠がそばに来て言った。 暴動…… 「そんなの……起きるわけないだろ」 「でも、ショウとあの伊橋が揃ってるのよ?」 ……起きるかもしれないな。 でも、二度とあんな事はしないぞ! 「ボ、ボクも生で見たいです!」 リルが席に座ったまま、目を輝かせてオレを見た。 「リ、リル? どうしたんだよ? つか、生って……」 「あ、えと……な、なんでもないです」 声をかけるとリルはハッとしたように表情を戻し、ついで真っ赤になって元の体勢に戻っていった。 「ナオ、も一回やるしかないんじゃない?」 オレの肩をポンと叩いてルミナ。 「ぜ、絶対嫌だ」 オレは首を振って全力で拒否した。 そこでふと気付いた……教室の扉の隙間からこちらを覗いている柊さんに……。 「なにしてんだ……あの人」 みんなに聞こえないぐらいの声でつぶやく。 あっ……そういえば……あの人はオレの正体に気付いてるんじゃ……。 そう思ったオレは教室を飛び出した。 そして、覗いていた柊さんを抱えると、全力で誰も居なさそうなところへ向かい走った。 |