……まさか……こんな事になるなんて。
 放課後……バイト先のロッカー。

「――マジで……ナオヤ?」 

 オレを見て驚愕の表情の悠。
 
「絶対似合うと思ってたのよ〜」

 オレの隣には満面の笑みの店長。
 あまりの恥ずかしさに、オレは俯いて手をモジモジさせる。俯くと頬に当たる長い髪。
 ……今、オレは腰まで届く黒髪のカツラを被り、しかも悠が着ているものと同じメイド服に身を包んでいた。
 
「あ、あんた、可愛過ぎるわよ」

 言って、悠は近づいてマジマジと見つめてくる。

「う〜ん……マジでムカつく程似合ってるわね」

 なぜか悔しそうな顔をする悠。
 
「ほら、公也君。自分でも確認してみて」

 店長はそう言って鏡を持ってきた。
 そこに移る自分の姿……。
 見る……そこに移っているのは間違いなくオレのはずなのにオレじゃないような。見た目は完全に女だった。自分だとは信じられない。

「あ、あの……オレ、なんでこんなカッコしてるんですか?」

 今更な質問をするオレ。

「ルミナちゃんの変わりに決まってるじゃない」

 嬉しそうに答える店長。
 
「でも……こんな……」
「今更文句なんて言わないの。それにしても……ルミナちゃんの風邪は心配だけど、そのおかげで公也君にこの格好してもらえたのは良かったわ。公也君を見るたびにいつもこうしたかったのよね〜」

 もう……やるしかないのか?
 このカッコで人前に出るなんて……恥ずかしくて死ねるんじゃないか?

「私の作戦は完璧でしょ? 悠ちゃん」
「そうですね。これなら絶対男だってバレませんよ」

 二人して盛り上がる悠と店長。
 
「あの……せめて……この服だけでも何とかなりません?」

 オレはスカートを両手で押さえる。
 今のオレは悠と同じメイド服……この店の露出度の高いメイド服を着ているわけで……つまり、超ミニスカートなわけで……。

「ダ〜メッ! それが公也君には似合うの!」

 店長が力強く言う。

「ほ、ほんとに……これでやるんですか?」

 泣きそうになりながら聞くと、悠と店長は二人同時に頷いた。
 さ、最悪だ……。
 
「いいじゃない。似合ってるんだから。自信持ちなさい」

 似合ってるとかそうゆー問題じゃないんだよっ! 自信なんて持てるかよ……男としてのプライドってもんが一応オレにだってあるんだ。
 それをこんな……女装なんて……。

「む、無理です……オレ――」
「女の子がオレなんて言っちゃ駄目!」

 言葉の途中で店長に額を小突かれた。
 
「女の子なんだから、ちゃんと女の子らしく話しなさい」

 お、女の子らしくって……。

「オ、オレは男――」
「ほらまたっ! 女の子はオレなんて言わないの! 『わたし』って言ってみなさい!」

 やたらと気合に入っている店長……今、逆らうのは危険な気がする。

「わ……わたし……」
「声が小さい!」
「わ、わたし……」
「まだまだっ!」
「わたし」
「もう一回」
「わたしっ!」

 そんなオレと店長のやり取りをニヤニヤしながら悠が眺めていた。


 ☆ ☆ ☆

「お帰りなさいませ〜、ご主人様」
「君、新人? 可愛いね〜」
「ありがとうございますぅ〜」

 店長との特訓の甲斐あってか……オレは完全に女の子を演じていた。
 もう今は完璧に女になりきってバレないようにする事しか考えてない。ルミナ達が働いている事もあって、ただでさえ桜花学園の生徒が多いこの店。
 ……バレたらオレの人生は終わったも同然だ。
 バレないように必死なオレだが、なぜか来た客来た客全員に声をかけられる。

「うわ〜マジ可愛い〜。ヤベ……みんな呼んじゃお」

 今、オレが席に案内した学園の男子はそう言ってどこかに電話をかけ始めた。
 最悪だ……この展開だと……学園の生徒が大量に来る予感……。
 注文を聞いて店の奥へ。 

「公也君、大人気ね〜」
「あたしは楽でいいわ〜」

 そこで談笑していた店長と悠。
 なぜだか二人じゃなくオレを呼ぶ客が多いんだ。
 注文の品を持っていく、その時、新たに客が入ってきた。

「お帰りなさいま――うぇっ!?」

 その客は……ショウ、だった。

「お、お帰りなさいませご主人様」

 気を取り直して出迎える。
 コイツには絶対バレちゃいけない……。
 
「あんた、今日も来たの?」

 オレの後ろからやってきた悠。

「当然だ。ここは俺の家みたいなもんだからな」
「あんたの家じゃないわよ。さっさと座って注文するか帰るかして」
「おいおい、来たばっかで帰るわけないだろ〜。……それより、その娘」

 そこで、ショウがオレを指差す。

「ああ、今日から入った娘でナオって言うの。可愛いでしょ?」
「おいっ! その名前はヤバイだろ!?」

 オレは焦って悠に耳打ちする。
 ショウは値踏みするような眼でオレを眺め、

「マジ可愛いじゃん! ルミナちゃん達にも負けてね〜よ!」
「でしょ」
「ああ! やっぱこの店は最高だな!」

 ……バレてないみたいだ。ショウがバカで良かった。
 
「こ、こちらですぅ〜……」

 入り口で話し続けるショウを席に案内する。その時、悠は楽しそうにこちらを見ていた。

「ナオちゃんって何歳? 彼氏いるの?」

 席に座ったショウの注文を聞き、その場を離れようとしたが捕まってしまった。
 
「じゅ、十七歳です……か、彼氏は……あの……いません」

 い、いるわけないじゃん……。
 ああ……一刻も早くここから立ち去りたい。

「同い年かぁ。彼氏もいないんだぁ〜! じゃあ俺なんてどうかな!?」
「ど、どう……って言われても……」

 こ、このバカ……本気で口説きにきやがった。
 助けを求めるように悠を見る。
 だが、悠は笑って手を振るだけで助けに来てくれる様子はない。

「あ、あの……困ります」

 ショウが両手でオレの手を握り締めてきた。
 
「あの……仕事があるので……」
「大丈夫だって! 俺はこの店の常連だし、大丈夫だよ」

 何が大丈夫なんだか……。
 しかし、自分が受けて初めて分かるショウのウザさ……ルミナやリルはいつもこんなの相手にしてるのか。
 逃げ出せずに引き攣った笑みを浮かべていると、

「テメー何一人で良い思いしてんだよ! ここのメイドさんはみんなのモンだろ!!」

 と誰かがオレとショウを引き離した。
 
「そーだ、そーだ!」
「いっ――ちょっお前等――やめっ」

 それに続いて、いつの間にか集まっていた学園の男子共がショウに襲い掛かった。その中に先程どこかに電話をかけていた奴も居た。ってことはここに居るのはみんな呼ばれてきた奴等ってことか?

「大丈夫だった? さ、仕事に戻っていいよ。この男は僕達に任せて」

 引き離された時の勢いで後ろに倒れそうになったオレの肩を抱いて止めてくれた男子が言った。
 顔を見る。
 それは……三年の伊橋いはしとかいう、確か女子に人気がある先輩だった。
 
「……あ、ありがとうございます」
「いや、気にしないで」

 言って爽やかに笑う。キラーンて感じだ。
 
「で、では、仕事に戻りますので!」

 オレは頭を下げて店の奥へ走った。


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