「これは完全に風邪……だな」

 取り出した体温計は三十八度を軽く超えていた。
 
「お粥作ってきたけど……食えるか?」
「うぅ〜……食べたくない」

 布団の中からは、いつもなら想像できないほど弱った声でルミナが返事をする。
 そういえば……ルミナが風邪なんて初めてか? 
 絶対、昨日の朝の水合戦が原因だよな。
 
「食べないと治らないぞ。薬も飲めないし。リンゴとかヨーグルトとかなら食べられるか?」
「多分……」
「解った。すぐ持ってくるよ」

 ルミナが食べなかったお粥を持ってキッチンへ。
 リンゴを小さく刻んでヨーグルトに混ぜる。これなら少しは食えるだろ。

「はい、持ってきたぞ」
「……うん」

 上体を起こすルミナ。
 それだけでも大変そうだった。
 スプーンを持ってヨーグルトを口に運ぶ。
 
「じゃ、この薬飲んで」

 食べ終わったところで、薬と水を差し出す。

「苦いのはイヤ〜……」

 子どもみたいなことを言うルミナ。
 
「わがまま言うな〜!」
「うあ〜……」

 無理やり口を開けさせて薬を飲ませた。

「ひ、ひどいよ……無理やり……するなんて」
「そうゆー言い方すんな」

 横になったルミナに布団を被せる。
 
「じゃあ……オレは学校行くけど、何かあったらすぐ連絡しろよ」
「うん……わかった〜」

 言って、オレは家を出た。 
 酷くなるようなら、明日病院に連れて行ったほうがいいかな……。


 ☆ ☆ ☆

「え〜っ!! ルミナちゃん休みなの!?」

 教室でルミナのことを話すとショウが大げさなほど落ち込んだ。
 いや、ショウだけじゃなく多数の男子が落ち込んでいる……ルミナってそんなに人気あったのか?

「ひどいっ! ひどいぞハムナリ!」

 ガシッとオレの肩を掴むショウ。

「な、なにが……?」
「そんな状態のルミナちゃんを一人家に残すなんて……心細いに違いない! だから、俺は早退してルミナちゃんの看病に行ってくる!」

 捲くし立て、教室を飛び出そうとするショウの襟を掴んで悠が止めた。

「風邪の時にあんたの顔見たら余計悪くなるわよ」

 言って、そのまま後ろにショウを引っ張る。
 
「うぎゃっ……」

 そのまま床に後頭部を打ち付けて気絶してしまった。

「それにしても……困ったわね」

 顎に指を当てて悠が言った。
 
「困ったって、なにが?」

 オレは悠に尋ねる。
 悠は視線をこちらに移し、

「ルミナが風邪ってことは……今日のバイトも出られないってことでしょ? 今日のバイトはあたしとルミナだけだから休まれると困るのよ」

 なるほど。それは確かに困るだろうな。
 バイト……勿論メイド喫茶のことだ。夏休みだけだったはずが、なぜか今も続いてしまっているのだった。オレは忙しい時に厨房を手伝う程度だけど……。

「さくらかリルに変わってもらうように頼めないのか?」

 悠にそう聞くと、

「今日はダメなんですよ〜。今日はリルちゃんとデートなので」

 さくらがオレの背後から答えた。

「それは……別の日に出来ないのか?」
「す、すみません……今日じゃないと駄目なんです。というか、さくら、デートじゃないから」

 今度はリルが答えてくれた。
 そうか……無理に頼むわけにもいかないよな。

「ほんと……どうしよう」

 困った顔で悠。

「とりあえず、ルミナが風邪ってこと店長に言ってみたらどうだ?」
「……そうね」

 悠はすかさず携帯を取り出し店に電話をかけた。
 なにやら話し込んでいる悠。
 
「二人はどこに行くんだ?」

 手持ち無沙汰なオレはリル達に話しかけた。

「ないしょです〜」

 と、さくら。
 そういう言い方をされると知りたくなるのが人間ってもんだよな。
 さらに尋ねようとした時、

「え……えぇっ!? はぁ……はい。ちょっとナオヤ」

 オレは悠に呼ばれた。
 なんか驚いてたみたいだけど……何なんだ?

「……なんだ?」
「あんた学校終わってから暇?」
「暇って言えば暇だけど……帰ってルミナの様子みるぐらい」
「店長がバイトにあんた連れて来いって」

 店長が?
 何でオレ? オレじゃルミナの変わりは出来ないぞ……。オレが厨房に入って厨房から誰か外に出るとかかな?

「来れる?」
「まあ……行けると思うけど」

 オレが答える。

「あ、店長。大丈夫みたいです。……はい、連れてきます」

 悠は店長にそう伝えていた。

「二人は何時ごろ帰ってくるんだ?」

 オレはリルとさくらに尋ねる。

「え……帰りですか? 早ければ七時ぐらいには帰れると思いますけど」

 そう答えたのはリル。
 七時か……もしオレがバイトを手伝う事になったら確実にオレより早いな。

「もし帰ってもオレが家に居なかったらルミナのこと見てもらっていいか?」

 さすがにずっと一人にしておくのは心配だし。
 
「あ、はい。良いですよ」
「ありがとう!」

 リルは笑顔で頼まれてくれた。
 オレはリルの手を握り締めお礼を言う。

「あ、あの……ボ、ボクもルミナのこと心配ですし」

 リルは何故か顔を赤くしてオレから目を逸らす。
 
「はいはーい、そこまでです。リルちゃんから離れてくださ〜い!」

 オレとリルの間に割って入ってくるさくら。
 
「ちょ――さくら!」

 さくらは顔をこちらに向け、

「うふふ」

 と笑う。目は笑っていなかった。
 オレは慌てて視線を逸らした。
 
「ナオヤ、学校終わったら一緒に来てもらうわよ」

 その時、電話を終えた悠が話しかけてきた。 

「あ、うん。わかった」

 オレはそう返事を返して、その事をルミナにメールした。


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