「ふぅ……だいたい片付いたかな?」

 足元に転がるショウを見て呟く。
 
「結構多かったね〜」

 さすがのルミナも疲れた様で、額の汗を手で拭う。  
 それもそうか……かるく二百人は超えてたからなぁ……。

「こっち終わりました〜っ!」

 声のしたほうに視線をやると、リルが手を振ってこちらに向かって走ってきていた。その後ろにはさくらもいる。

「こっちも終わったわよ」
「うわおっ!?」
「……なによ?」

 突然の背後からの声に驚いて振り向くと、そこに居たのは悠だった。
 悠は半目でオレを見ていた。

「い、いきなり現れんなよ……」
「ふん。……にしても数多すぎ」
 
 悠は腕を組んで不機嫌そうに言った。
 確かに多いな……。
 二百人超えてたっていっても、それはオレとルミナが担当した校舎の中の二年生部分だけで悠の担当した一年、リルとさくらの三年も同じくらいは居たんだろう。
 
「みんな終わったし、これで全部片付いたってこと?」

 悠は不機嫌そうな顔のまま、幸せそうに眠っているショウの顔を足でグリグリしている。それでもショウの顔は変わらない。
 これって……顔を踏まれて喜んでいるように見えるな。いや、踏まれる前からショウの表情は変わってないんだけどさ。
 
「終わったんじゃないか?」
「疲れたぜー……」
「さすがにボクも疲れました〜……」

 オレは呆れ顔でショウを見ながら答える。
 ルミナはその場に座り込み、リルは壁にもたれかかった。

「終わりましたね……校舎の中は」

 笑顔でさくらが言う。
 …………。

「校舎の……中は?」
「はい。校舎の中は♪」

 どういう事だ?
 校舎の中は……って、

「ああああぁ――――っ!!」

 思わずオレは叫んだ。

「ひえっ!?」
「ナ、ナオヤさんっ!? どうしたんですか?」

 突然叫んだオレに驚くルミナ。
 リルも驚きながらも、その訳を尋ねてきた。

「お、終わってない……」
「ナオ?」
「まだ終わってないんだよ! 校舎の中は終わったけど……体育館とかグラウンドとかがまだ残ってるんだ!」
「ああっ!」

 リルもオレの言葉でその事に気がついたらしい。

「そういうことです」

 相変わらず微笑んでいるさくら。
 
「あたし、もう疲れたから嫌」

 ショウを踏み続けながら悠が言った。
 
「嫌ってお前……」
「それに体育館とグラウンドだけなら四人で十分でしょ?」

 それは……そうかもしれないけど。

「それにあたしは一人で一学年分やったのよ?」
「う…………」

 確かに……単純にオレ達の倍は大変だったことになる。
 
「……わかったよ」

 オレがそう言うと、悠はふふん、と勝ち誇った笑みを浮かべた。

「それじゃあ、私はリルちゃんとグラウンドの方に行ってきますね〜」
「さ、さくら……離れ……」

 さくらはリルを抱きかかえて足早に下駄箱の方へ去っていった。

「んじゃ、オレ達も行くか」

 ルミナに向かって言う。するとルミナはオレの方に手を伸ばしてきた。
 ……立ち上がるのを手伝えということらしい。

「……はいはい」
「ん」

 オレはルミナの手をとって立ち上がらせる。
 そして、体育館へ向かった。


 ☆ ☆ ☆

「どうする……これ」
「……どうしようね?」

 二人して体育館の前で立ち尽くす。
 体育館……そして、少しはなれたところに武道場があった。
 すっかり忘れていた……武道場の存在を……。

「二手に分かれるか?」
「そだね……じゃ、アタシ体育館で」
「ちょっと待て」

 言って体育館の中へ入ろうとするルミナの腕を掴んで止める。
 
「なに?」
「勝手に決めるなよ……ここは公平に行こうぜ」

 見えるとはいえ、武道場は少し離れた場所だ。オレだって出来れば近い体育館の方がいい。
 
「……い、いたいよ」

 目に涙を溜めて上目遣いに見上げてくるルミナ。
 
「あっ……ご、ごめん」

 慌てて手を離す。 
 途端――

「じゃ、向こうは頼んだぜー!」

 と、ルミナは体育館の中へ猛ダッシュ。

「…………き、きたねえ」

 オレは呆然とルミナの入っていった扉を見つめた。


「うお〜……なんか独特な雰囲気だな」

 武道場に入って呟く。
 なんか、ここだけ他とは違う雰囲気がする。武道場は完全部活専用だから武道場を使うような部活に入ってない生徒には関係のない場所だ。だから、学校なのに学校じゃないような……そんな感じがする。 
 誰か居ないか確認しながら奥へと進んでいく。

「――――なっ!」

 畳の部屋――多分、柔道部なんかが使う部屋だろう――を抜けて剣道場までやってきたオレは、目の前の光景に言葉を失った。
 そこには……しかばねの山。
 正確には……屍じゃなくて気絶した生徒の……。
 
「お姉さまぁ――――っ!」

 見入っていると山の向こう側からそんな声が聞こえた。
 オレは声のした方へ回り込む。
 そこには……こちらに背を向けている剣道着を着た女の子と、その少女に向かって走っていく女生徒。 
 
「お姉さ――」

 剣道着の少女に抱きつこうとする女生徒。
 
「……ま」

 だが、その女生徒は抱きつく寸前でパタリと横に倒れてしまった。
 多分剣道着の子が何かしたんだろうけど……全然見えなかった。

「…………」

 剣道着の少女が振り返る。
 それは驚くほど綺麗な子だった……なんか無表情だけど。

「あ……あの……」

 声をかけても返事をしてくれない。表情を一ミリも動かさずにオレを見据えている。

「これ……君が?」

 オレは生徒の山を指差して尋ねる。
 頷く少女。
 それから彼女、

「…………から揚げ」

 と恐ろしく小さな声で言った。
 ……全く意味不明だった。
 何故にから揚げ?

「あ、そうだっ!」

 多分、この気絶した生徒達は病気にかかってたんだ。それでこの少女に襲い掛かって返り討ちにあったと……そういうことだと思った。
 彼女ほどの外見ならこのぐらいの数のファンが居ても不思議じゃない。
 オレは気絶した生徒達に次々と薬を打ち込む。
 少女はそんなオレを無表情にジ〜っと見つめていた。


「ふ〜……終わったぁ」

 暫くして全員に薬を打つことが出来た。 
 
「あの……見てて楽しい?」

 ずっと見つめていた少女に問いかける。
 
「……琴葉」
「え?」
「……ひいらぎ……琴葉ことは

 柊……琴葉?
 それって……

「もしかして……君の名前?」

 こくりと頷く少女。

「…………あなたは?」

 そしてオレの目を見て言う。
 
「あ、ああ……オレは公也。大坪公也」

 オレが答えると少女は、

「大坪……公也…………覚えた」

 頷きながら呟いていた。


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