| おかしいのは二年E組だけじゃなかった……。 学園長室に来るまでに通った教室のほとんど全てが同じような状態にあった。 「ナオく〜〜〜んっ!!」 学園長室に入ると、いつものように真奈美さんが抱きついてきた。 「大変大変大変だよぉ――――っ!」 泣きながら叫ぶ真奈美さん。 ああ……そんな漫画みたいに大量の涙を流さないで。抱きつかれてるからどんどん服が濡れていく……。 オレは溜息を吐きつつ真奈美さんの頭を撫でる……こうすれば泣き止む事は学習済みだ。 「大変なのはわかってます……見ましたから」 泣きやんだ真奈美さんに話しかける。 「で……なんなんですか? あれって、なんかの……病気ですか?」 真奈美さんは目元の涙を拭い、 「黒いの……説明して」 部屋の隅に立っていたダディーに向かって言った。 ダディーはオレ達の前に歩いてくる。 「あれは……お前の言うとおり病気だと思っていい。ただし地球にはないはずの、な」 「な、なんて病気なんだ?」 尋ねる。 ダディーは目を閉じて、深刻な……どことなく嫌そうな顔で、 「正式名称は長いので省くが……通称は……ロマンティックが止まらない症候群だ」 言ったあと、顔を真っ赤に染めるダディー。 ……確かに真面目に口にするには恥ずかしすぎる単語だった。 「ロ、ロマンティックが止まらない症候群?」 「……ああ」 聞き返すと、やはり真っ赤な顔で頷く。 ……ど、どんな病気なんだ……それって。 「……う、うそ」 リルが口に手を当て震えていた。 ……なんなんだ……いったい? 「ど、どうしたんだ? そんなにヤバイ病気なのか?」 「うむ……身体に被害があるとかではないのだが……」 話しにくそうにするダディー。 「なんというか……その……」 「なんだよ? はっきり言ってくれよ」 「つまり……簡単に言えば発情する……というか、愛が溢れてとまらないというか」 …………はい? なに……そのアホらしい病気は。 「――ナ、ナオはなんともないの!?」 突然、今まで俯いて黙っていたルミナがオレの方を掴んできた。 「な、なんだよ……なんともないけど……」 「な、なんでぇ――――っ!!」 「ナ、ナオヤさん……」 叫ぶルミナ、悲しいようなホッとしたような表情のリル。 ……マジでなんなんだ? オレは訳がわからず戸惑うことしか出来ない。 「ど、どうしたんだ? 意味がわからないんだけど……」 「ルミナやリルは免疫があるし、真奈美は私が処置しているから病気にはかかり難くなっている。だけど、お前はなんの免疫もない訳だ」 ダディーが説明してくれるが、いまいち良くわからない。 「この病気はね……好きな人とか気になっている人に対してどうしようもない状態になっちゃうんだって」 真奈美さんが補足してくれる。 「どうしようもない状態?」 「ナオくんも見たでしょ? 今の生徒達の状態を」 ああ……ショウとか教室のやつらの……つまり、この病気にかかると気持ちが強くなって、そっち方面の理性が弱くなるとかそういうことか? 「あれ……じゃあ、オレや悠、それにさくらが何ともないのは? 他にも無事な生徒もいるみたいだし」 「それはこっちが聞きたいよー!」 オレの言葉に怒ったようにルミナが言った。 「それは……」 真奈美さんは目に涙を浮かべて、 「病気にかかってない生徒はほとんどが宇宙人。一部の人間やナオくん達は多分好きな人とか……気になる人も居ないってこと。ひ、ひどいよね……私はこんなに愛してるのにっ……。」 「ナオのバカァ――ッ!!」 「……ナ、ナオヤさん」 な、なんで、みんなしてそんな目で見るんだ……。 その時―― 「ああっ! リ、リルちゃん大好きです! 病気にかかってしまったみたいです気持ちが抑えられませんっ!」 「ちょ――さくら……そんなあからさまな嘘を……」 いつも以上に激しくリルに抱きつくさくら。 そこで、ふと思った。 リルの事を好きなのは絶対完璧なのに、なんでさくらは病気にかかってないんだ? 教室で見た時、女同士で……って生徒も居たはずだ。 まさか……さくらも宇宙人とか? って、んな訳ないか……。 「確か女同士でも効果ありましたよね? 何でさくらは病気になってないんですか?」 「さあ? 黒いのは何かわかる?」 「さっぱりだ。免疫を持っているのか? でも地球人にはないはず……」 考え込んでしまうダディー。 真奈美さんにルミナはずっとオレの事を恨みがましい眼で見てるし……さくらとリルはあんなだし……。 「あれ……悠は何で無事なんだ? 好きな人居ないのか?」 ふと目に入った悠が気になって尋ねた。 「居ないわよ、そんなもん」 即答する悠。 「そういえば……ショウって一応悠の事も女として見てたんだな」 「はあっ!?」 「だって気になる相手への想いが止められなくなるんだろ? ルミナやリルだけじゃなくてお前にも迫ってたじゃん」 「…………」 ちょっと赤くなる悠。 めずらしい……悠が恥ずかしがってる。 「話をしたいのだが……」 混乱した部屋の中、ダディーが冷静に言った。 「わ、悪い……」 「この状況をなんとかする。それを、学園のことを知っているお前達に手伝って欲しい」 ダディーがオレ達を見て言う。 学園のこと……それは、夏休みが終わってすぐ、ダディーが学園に来たときに聞いた学園の秘密。地球にはかなり昔から数多くの宇宙人が暮らしていて、この学園は日本に住む宇宙人のための学園であるということ。生徒の三分の一以上は宇宙人らしい。 だから、宇宙的な事件とかが起きる事もある。オレ達は宇宙人と深く関わってるって事で、そういう事件が起きたときに手伝って欲しいと頼まれたのだった。 「やっぱり……そうなるんだ」 「ごめんね……いつも手伝わせちゃって」 手を合わせて謝る真奈美さん。 それを知った日から今まで何度かそういう事件を解決する手伝いはした。その中で悠もその事実は知ってしまっていた。 「またぁ? めんどくさいわね」 悠はやる気のない感じで呟いた。 「今度ご飯奢るから!」 「あたしに任せてっ!」 悠は物やお金で簡単に動かせる事も真奈美さんは理解していた。 「じゃあ……これを」 ダディーと真奈美さんがオレ達全員にある物を手渡す。 「これは?」 見ると、それは銃だった。 「それの弾丸は薬になっている。病気の人間に向けて打てばいい。身体に傷などは出来ないから遠慮はいらない」 と、ダディー。 はあ……また疲れそうな任務だな。 「病気の生徒全員に撃ってこい……と」 「そういうことだ」 いったい何人居るのかもわからない。生徒の三分の二ぐらいは普通の人間ってことは相当数居るってことだろ。 「じゃあ、宜しく頼むぞ」 「みんな宜しくね〜」 二人は何にもしないんだ……。 まあ、いいけどさ……。 「任せて学園長! ご飯忘れないでよ、高級レストランのフルコースだからねっ!」 「ちょ――それはっ」 真奈美さんの反論も聞かず、悠は走って出ていってしまった。 「仕方ない……オレ達も行くか!」 銃を構えてみんなに向かって言った。 「うんっ!」 「はい――って、さくら! いい加減離れてっ!」 「私は病気なんです〜」 「う、嘘つかないで!」 相変わらず抱きついて頬擦りするさくらに銃を向けるリル。 「病気なら……薬撃てば治りますよね?」 そして、にっこりと告げた。 「もう、リルちゃんたらつれないんだから!」 頬を膨らませてさくらはリルから離れた。 |