――ピピピピピピッ。
 目覚ましの音が鳴り響く。
 今日から新学期。
 休み明けの朝っていうのは、やっぱりツライ……。
 オレは布団から手を出し、目覚ましを叩いて止める。

「――痛っ!」 

 叩くと目覚まし時計はそんな悲鳴を上げた。
 …………悲鳴?
 なんで目覚ましが悲鳴を?
 オレは眠い目を開けて時計を見る。

「もぉ! 痛いな〜……」
「何……してんの?」

 そこにあったのは時計ではなく、痛そうに頭をさするルミナだった。
 
「なにって……起こしにきたに決まってるよ」
「なんで普通に起こさないんだよ……」
「普通に起こしたよ〜……目覚ましっぽく」
「似すぎなんだよ。思わず叩いちまったじゃねえか」

 そんな会話をしつつ体を起こす。
 
「さっさと起きてよ〜。もうご飯出来てるよ」
「マジか……すぐ着替えて行くよ」
「うんっ!」

 ルミナが部屋を出て行く。
 オレは立ち上がり窓を開けた……良い天気だ、つーか良い天気過ぎる。夏休みが終わったといってもまだまだ暑い。
 クローゼットを開け、クリーニングに出したばかりの制服に着替える。
 着替えてリビングに行くと、ルミナがテーブルに料理を運び終わったところだった。

「おはよう」
「おはようっ! さ、食べようぜー!」

 制服の上から着たエプロンを脱ぎながら言うルミナ。
 それはルミナと暮らし始めた頃には想像もつかない姿だった。テーブルに並んだ料理もなかなか美味しそうだ。
 
「いただきます」
「いただきま〜すっ!」

 ルミナと向かい合わせに座って食べ始めた。
 朝食を終え、玄関を出る。

「あっ、おはようございます! ナオヤさん!」
「おはようございます〜」

 丁度、リルとさくらの二人と鉢合わせた。
 
「おはよう。今日も暑いな」
「おはようだぜーっ!」

 挨拶を交わし、一緒に登校する。


 ☆ ☆ ☆

「夏休みが終わってしまいました」

 朝、教室に入るなり、ショウが話しかけてきた。
 ……何を当たり前な事を言ってるんだ。

「そうだな。終わったな、夏休み」

 適当に返事を返す。

「なので詰まらない学園生活を変えるために俺は彼女を作ります」

 ……真剣な顔で何を言ってるんだか。暑さで頭がやられたか?

「とゆーことで、ルミナちゃん!」
「なにー?」
「俺と付き合わない?」

 と、ショウはいきなりルミナに告白した。

「え……無理」

 そして即効でフラれた。
 
「じゃ、じゃあリルちゃん! 俺と付き合っ――」

 ルミナを諦めてリルに告ろうとしたショウ。

「何か今、頭の悪い発言が聞こえた気がしましたけど……気のせいですよね?」
「ぐ……ぐががっ……」

 ショウの顔を鷲掴みするさくら。
 
「き、気のせいだと思うなら手を離し――」
「なんか雑音が聞こえますね。あっ、ゴミはゴミ箱に捨てないといけませんね」

 言ってゴミ箱に向かってショウを投げ捨てた。
 やっぱ怖ぇ……。
 そして、やはり教室の誰もショウを気にしない。なんかもう、これが日常なのか? 
 
「はいは〜い! みんな席に座って〜」

 チャイムが鳴ると同時に担任である香奈ちゃんが教室に入ってきた。
 
「みんな夏休みは楽しかったかな? 先生はずっと、一人で飲んでましたぁ〜」 
 
 うわぁ……寂しい……なんて寂しい大人なんだ。
 ちょっと可愛い感じに言ってるのがまた哀愁を誘う。

「今日は皆さんに紹介したい人がいま〜す!」

 香奈ちゃんが告げる。
 ……紹介したい人?
 
「また、あんた達の関係者?」

 悠が話しかけてくる。

「いや、違う。なぁ、ルミナ?」
「うん。全然知らないぜー」

 顔を見合わせるオレとルミナ。
 
「じゃ、入ってきてください」

 扉の向こうに声をかける香奈ちゃん。
 ドアが開き、呼ばれた人物が入ってくる。
 真っ黒なスーツに、これまた真っ黒なネクタイ。
 肩ほどまであるサラサラな黒髪。鋭いが、どこか優しげな切れ長の瞳。身長は百八十程だろうか……。細身の身体だが決して華奢なわけではない。
 その男性が教室の前、教壇の辺りまで歩いていく。
 教室の女子からは悲鳴にも似た歓声が沸き起こる。

「え〜、今日からこのクラスの副担任を務める出井でいだんだ。宜しく頼む」

 副担任……教壇に立つ男は渋い声でそう言った。
 オレはその声に聞き覚えがあった。

「シ……シブイ……」

 その副担任を見て、悠が他の女子同様瞳を輝かせていた。
 出井弾……出井だん……でいだん……でいだん……でぃだん……でぃーだん。

「ダ、ダンディー……」

 オレは小さい声で呟く。
 まさか……ダディーなのか?
 
「ル、ルミナ……あれってまさか……」

 オレはルミナに尋ねる。
 
「た、多分……ダディー……だと思う」
「た、多分?」
「うん……昔、人型になれるって聞いたことあるような気が……」

 自信無さ気に言うルミナ。
 でも、そう聞いたことあるかもしれないんだ……。

「じゃあ、あれってやっぱり、ほんとにダディーなのか……」
「多分……そうだと思う」

 その後、ダディーと思われる人物は女子に囲まれ質問攻めにあっていたため、オレ達は真相を確かめる事が出来なかった。
 
 そんなこんなで、帰りの時間。
 今日は夏休みが終わって初日ということで、始業式とHRだけだ。
 結局、まだ出井弾がダディーかどうか確かめることが出来ていない。
 
「ルミナ、ナオヤさん。副担任の人って……ダディーさんですよね?」

 帰り支度を終えたリルが近づいてきて言った。
 
「やっぱリルもそう思うか?」
「はい」
「多分ダディーだと思うぜー」

 確かめようにも、既に出井弾の姿は教室には無かった。
 家に帰ったあとでダディーに直接確かめようと、オレ達は下校しようとした。
 その時――  

『二年E組の大坪くん、ルミナさん、リルさん、咲嶋さん。以上四名は至急、学園長室まで来てください。繰り返します。二年E組――』

 と、放送が流れた。
 
「オレ達だよな? 真奈美さんが何か用でもあるのか?」
「さあ? 行ってみようぜー?」
「ボク達も呼び出されるなんて珍しいですよね」
「そうですね〜」

 そんな事を言いながらオレ達は学園長室へ向かった。
 

 ☆ ☆ ☆

「待ってたよー! ナオくぅ〜ん!」

 学園長室に入ると真奈美さんが抱きついてきた。
 学園長室には出井弾の姿もあった。

「なんですか? 呼び出したりして」

 オレは真奈美さんを引き剥がして訪ねる。
 
「ん……今から話すよー。とりあえずみんな座って」

 真奈美さんに促されて、オレ達はソファーに座る。
 
「まず……そこの人……出井弾は、あの黒いのよ」

 出井弾を指差しながら真奈美さんが言う。
 
「やっぱり、ダディーだったんだー!」
「ああ、そうだ」

 ルミナの言葉に答えるダディー。
 ついでにオレも質問する。

「何で今まで人の姿になれるって隠してたんだよ?」
「別に言う必要もこの姿になる必要もなかったのでな」

 そう答えるダディー。
 
「じゃ、なんで今、その姿で学園の教師なんかになったんだ?」
「それは……私が説明するわ」

 オレの問いかけに答えたのは真奈美さんだった。
 
「貴方達を呼んだのはその為なの」

 真奈美さんは、いつになく真剣な表情でオレ達を見た。
 
「重大な事なんですか? なんでオレ達四人を?」
「それを今から説明するわ……」

 夏休み、ダディーが何の仕事を手伝っていたのか。そして、ダディーが学園の教師になった理由。最後に……学園の秘密。
 それをオレ達は真奈美さんから聞いた。


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