| 海から帰ってきた翌日。 疲れただろうということでオレもルミナもバイトは休みになった。 だから、まだ手をつけていない夏休みの課題をやってしまおうと、机にルミナと向かい合わせに座って、課題を広げた。 そんな時……真奈美さんが突然、我が家にやってきた。 同じマンションに住んでいるというのに、夏休みに入ってから真奈美さんに会ったのは今日が初めてだった。 まあ、夏休みに入ってすぐバイトを始めて海に行っていたってのもあるんだけど。 なんでも真奈美さんも学園の事とかいろいろと忙しかったみたいだ。 ずっと学園に泊り込みで仕事をしていたらしい。 「もぉ〜なんでぇ!? なんで、私だけ置いてみんなで海とか行くの!?」 そして……真奈美さんは最上級に機嫌が悪かった。 そりゃもう悪かった……真奈美さんはもう一時間ぐらい文句を言っている。 「私もナオくんと遊びたかったよぉ――――っ!」 最後には泣きだしてしまった。 なんか……どうしよう? 「ま、まあまあ……今度遊びに行く時は誘いますから」 「今度じゃ意味ないのっ! 私はナオくんと海に行きたかったのっ!!」 ああ、もう……めんどくせえな、この人。 「じゃあどうすれないいんですか?」 「何!? その言い方! 愛が感じられないんだけど!?」 「いや、だって……そんなもん無いっすもん」 「うえぇ〜ん――ナオくんが酷いよぉ〜!」 子どものように泣く真奈美さん。 酷いのは、この人の頭ん中なんじゃないか? 「真奈美よ。今更言っても仕方ないだろう……。そしてお帰り二人とも」 真奈美さんの頭に乗っているダディー。 「ただいまダディーッ!」 「ただいま……って、何でダディー真奈美さんの頭に?」 そういえばダディーって海に来てなかったけど……その間に真奈美さんと何かあったのか? 名前で読んでるし……。 「いや、気付いたら誰も居なくてな……途方にくれていたら真奈美がやってきたのだ」 「ナオくんに会いにきたんだよ! そしたら、この黒いのしか居なくて」 「いい加減名前で呼んではくれないのか?」 「で、ムカついたからこの黒いの連れて呑みに行ったの!」 「それから何故か今まで仕事を手伝わされる事になったのだ」 へぇ〜……その何故かって部分が一番知りたいんだけど。 「ナオくんっ!」 「な、なんですか?」 「次、遊ぶ時は絶対誘ってよねっ!」 「は、はぁ……わかりました」 この人と遊びに行くとか……物凄い疲れそうだな。 「真奈美よ。まだ仕事が残っているんじゃなかったか?」 「あっそうだった! じゃ、ナオくん! この黒いの借りてくね!」 真奈美さんはそう言うとダディーを連れて出て行った。 「あの二人仲良くなったんだねー!」 玄関の方を見ながらルミナが言う。 仲良くなった……のか? ダディーって何でも出来るし、真奈美さんが便利に使ってるだけなんじゃないのか……。 「ま、オレ達は課題やろうか」 「そだねー」 そして、オレとルミナは何事も無かったかのように課題をやり始めた。 ☆ ☆ ☆ 夏休み最終日。 「マジ助かったぜハムナリ! やっぱお前は親友だなっ!」 「そうか、オレはお前の友達である事を後悔してるよ」 オレはバイト先でショウに課題を写させていた。 昨日の夜、ショウから電話で頼まれたのだ。 だからバイト先にわざわざ課題を持ってきてやったんだけど……ショウはほんとに全く課題に手をつけていなかった。店が始まってすぐに写し始めたのに、もうバイトも店の営業時間もとっくに終わっていた。 ショウが課題を終わらせるまで店に居ていいと店長が許してくれた。それでも、早く帰りたいオレはショウの向かい側に座って催促する。 「ナオヤさん、これどうぞ」 「あ、ありがとう。いいの?」 「はい! 大丈夫です」 リルがコーヒーを入れて持ってきてくれた。 ルミナやリルも帰ってもいいのに待っていてくれる。 「……うん。美味しいよ」 「あ、ありがとうございます。ボ、ボク着替えてきますね」 ひと口飲んで言う。 ホントに美味かった……オレが好む砂糖なしミルク多目。リルはそれを分かってくれてるみたいだ。 リルは言って、ロッカーへ入っていった。 「ナオー帰ろーぜー!」 リルと入れ違いにメイド服から私服に着替えたルミナがやってきた。 「帰りたいけどコイツがまだ写し終わらないんだよ……」 オレは親指でショウを指差す。 「あ、あと少しだから急かすなよっ!」 ショウが必死に写しながら言う。 「お前、先に帰ってていいぞ」 確かに残りわずかだが、それでもあと二十〜三十分はかかりそうだったので、ルミナに先に帰るよう促した。 「ううん……待ってるー」 オレの後ろ側の席に座るルミナ。 「そうか? 別に待ってなくてもいいのに……」 「一人で帰っても暇だもん。ダディーもいないしさ」 そういえば……ダディーはずっと真奈美さんと居るみたいだな。ここのところ帰ってきてないし。 「明日から学校だねー」 「ああ、夏休みって終わるの早いよな。また学校が始まるのかと思うと気が重いよ」 「え〜、なんで? アタシは楽しみだぜー」 「それこそなんでだよ?」 「アタシ学校好きだもん!」 「マジか?」 「マジだぜー!」 学校が好きだと笑顔で言うルミナ。 学校が好きとは……珍しいやつだな。 「ボクも学校好きですよ」 その時、着替え終わったリルがやってきた。 「そうなのか?」 「はい! ボクもルミナも学校みたいに同じ歳の人がみんな集まって何かするなんて地球に来るまで経験した事ありませんでしたから……」 ちょっと寂しそうな表情で言うリル。 「本当に? 宇宙って学校とかないのか?」 「本当だぜー! 宇宙にも学校はあるけど……何かあったら大変だってパパが」 「行かせてくれなかったのか?」 「……うん」 「リルも?」 「そんな感じですね」 あの親バカ共は……過保護すぎなんじゃねえの? 「だから同じ歳ぐらいの友達ってリルしか居なかったんだよー」 「と、友達っ!? な、なななななにを柄にもない事を……」 リルは何故か真っ赤になって 「え〜、友達じゃないの?」 「と、とと友達……だけど……」 どんどん赤くなるリルの顔。 そんな二人を見てると、普段喧嘩ばっかりするけど、やっぱり仲良いんだなと思った。 「お、終わったぁ――――っ!!」 ショウが叫んで机に突っ伏した。 どうやら写し終わったようだ。 「やっとか……次からはもう写させないからな」 「そんなこと言うなよぉ、親友だろぉ〜」 「いや、そもそも……オレとお前って親友なのか?」 「ひどっ!! 俺はこんなにハムナリのことを想ってるのに!」 「キモい事を言うな」 「いたいっ!」 ショウの頭を小突く。 全く……友達だからお前のためを思って自分でやれって言ってんのに……。 「ナオー! 帰ろうぜー!」 「ん……そうだな」 オレは自分の課題を持って立ち上がる。 「あっ、じゃあ、さくら達呼んできますね!」 言って、リルは事務室の方へ走っていった。 ショウが課題を写している間、さくら、悠、店長はそこで話をしていた。 「全くいつまでかかってんのよ。遅すぎるわよ」 こちらへやってきた悠はかなりイラついていた。 「だったら先に帰ればいいのに……」 「ああん?」 「な、なんでもないです」 「じゃ、帰るわよ」 「はい……」 悠に引きずられるようにして店を出て行くショウ。 二人の帰り道は同じ方向だった。 「何かあったら悠に守ってもらえよー!!」 オレはショウの背中に向かって叫んだ。 「普通逆じゃねっ!?」 どんどん離れていくショウがこちらに向かって叫び返してきた。 ……だって、悠の方が頼りになるから。 「アタシ達も帰ろうぜー!」 小さくなる悠とショウの背中を見つめていたオレにルミナが声をかけてきた。 「大坪くん……私が居なかったからってリルちゃんに何もしませんでしたよね?」 さくらがオレの耳に息がかかるほど顔を近づけて囁くように言った。 「し、してないです!」 恐怖と女の子特有の甘い感じのさくらの匂い、それと耳に吹きかかるさくらの吐息に若干どきどきしつつ答えた。 「そうですか。じゃあ帰りましょうか」 一歩オレから離れて笑顔で言うさくら。 「何言われたのー?」 「な、何でもねーよ……」 ルミナの質問に答えるオレ。 「ナオ何か顔赤いよ?」 「そ、そんなことないよ」 「……ふ〜ん」 ジト目でオレを見るルミナ。 「じゃ、帰ろうか!」 誤魔化すように大声で言って、オレは店を出た。 |