| 屋台を一通り楽しんだオレ達は祭りに来る前に店長から聞いたオススメスポットで打ち上げられる花火を見ていた。 店長の教えてくれた、この場所は、さすが店長……オレ達以外に人の姿はなく、花火も綺麗に見える最高な場所だった。 ルミナが屋台の景品で獲得したレジャーシートを広げ、オレ達はそこに座っている。 「すごいね〜! あの花火アタシもやりたいぜー!」 「あれは個人で出来るようなもんじゃないから」 「なんで?」 「なんでって……危険だし」 話しながらもルミナの視線は花火に釘付けだ。 「アレって一発いくらなのかしらね」 これは悠の言葉。 こいつ……なんでそんなに金に 「三号玉が約三千四百円、五号玉が約一万円、十号玉が約六万円、二十号玉が約五十五万円だ」 花火を見ながら答えるオレ。 …………。 あれ? 誰も喋らなくなったぞ……。 「…………な、なんだよ?」 視線を花火から悠達に向けるとルミナ以外の三人が驚いたようにオレを見ていた。さくらはいつも通り笑顔だったけど。 「あんた……なんで、そんなこと知ってんの?」 「べ、べつにっ……オ、オレだって気になって調べた事があるんだよっ!」 「あんた、そんなこと考えながら花火見てたの? こういうのは、もっと純粋に楽しみなさいよ」 「お、お前が言うなよっ!」 「あたしは言ってみただけよ。わざわざ調べようとまでは思わないって」 声もオレを見る眼つきも呆れた感じの悠。 う……なんか負けた気分だ。 「ナ、ナオヤさんは勉強熱心なんですよねっ! 疑問に思った事はなんでも調べるっていうか……」 「……あ、ありがとう……リル」 その必死のフォローが胸に痛いよ……。 「でも調べたものが花火の料金って――」 「もういいよっ! 花火を見ろよ……うう……」 オレはちょっといじけて金魚の入った袋を突付く。それに反応してオレを見る、ルミナの出目金。 見つめあうオレと出目金……やつはオレから目を離さない。潤んだ瞳で見つめてくる。いや……潤んでるとか解んねえけど。それを見ていると出目金が「ま、気にすんな。元気出せや」と、オレに向かって言っているような気がした。 「……か、可愛いじゃねーか……」 そんな出目金が、やけに可愛く見えた。 オレはつぶやきながら袋をつんつんと突付いていた。 「な、なんかヤバイ奴になってんじゃない?」 「………………」 「うふふ、さすがのリルちゃんも言葉を失ってしまいましたね〜」 三人はそんなオレから距離をとって、完全に引いた表情をしていた。 それから暫くの間、壊れた感じの笑顔に虚ろな目で金魚の袋を突付き続けていた。そんな状況を変えてくれたのは―― 「ねぇねぇナオッ! お祭りって楽しいね!」 やっぱりルミナだった。 「……あ、ああ……そうだな」 オレは、はっと我に返り、返事をする。 「明日もお祭り来たいっ!」 言って目を輝かせているルミナ。 「いや……祭りは毎日あるわけじゃないし……」 「えぇ〜っ、ないの!? お祭り楽しいのにっ!?」 「毎日あったら飽きるだろ……たまにだから楽しいんだよ」 オレの言葉を聞いてなにやら考え込むルミナ。 「そっかー。なら、次のお祭りも絶対来ようねー!」 「ん……あ、ああ……解ったよ」 すぐ隣に座って、笑顔でオレを見て言うルミナに若干ドキドキしてしまいつつ答える。 ……オレ、何でドキドキしてるんだろう? わけわかんねえ……。 「……なんか……冷たい」 笑顔だったルミナが急に、なんか何ともいえない表情になって言った。 冷たい……寒いじゃなくて? そもそも夏だし寒いってのもおかしいけど…… 「あっ! ナ、ナオヤさん――き、金魚! 金魚の袋が――」 リルが金魚の袋を指差して焦ったように叫んだ。 ……金魚? オレは金魚に視線を―― 「って、あぁっっっ!! ふ、袋が!」 金魚の袋に小さい穴が開いていて、そこからピューッと水が噴出していた。それが丁度ルミナの座っている辺りに向かって飛んでいる。 「や、やばいやばい……このままじゃ水なくなる!」 オレは袋を手に持ってオロオロする。 「ナオ! 袋取り替えてもらいにいこうぜー!」 「あ、ああ……そうだな」 「ここからなら屋台に行くより旅館に帰ったほうが早いわよ!」 悠が焦って走り出そうとしているオレにそう言った。 「りょ、旅館?」 「旅館にも袋ぐらいあるでしょ。なくても入れるものぐらいあるんじゃない?」 「そ、そうかっ! じゃ、じゃあ急いで旅館に帰ろう!」 「ナオッ! もう水がヤバイよ」 オレ達は旅館に向けて全力で走り出した。 折角の花火見物も、最後はなんか慌しくなってしまった。 ☆ ☆ ☆ 「な、なんとか……間に合ったな」 「つ、疲れたぜーっ」 「ゆ、浴衣って……は、走りにくい……ですね」 なんとか旅館までたどり着き、バケツを借りて金魚を移した。……旅館に着いたとき、出目金の半分は水に浸かってないぐらい袋の中の水は減ってしまっていた。 ここまで全力疾走のオレ達は息を切らして座り込んでいる。 「ああっ! 呼吸を荒げて汗をかいて浴衣が乱れてるリルちゃん可愛いですっ!」 「あ……さくら……や、やめて」 さくらがリルに抱きつく。 同じく全力で走ってきたはずなのに息一つ切らしてないさくらが恐ろしい。 だいぶ危ない人になってきた気がする……今のリルに頬擦りするさくらを見てると本当にそう思う。 「ふ〜ん、間に合ったんだ」 のんびり歩いて、今旅館に到着した悠がバケツを覗いて言う。 「汗かいちゃったからお風呂でも入ってこようかしら」 既に金魚には興味がない様子で悠。 ……汗かいたって、お前歩いてきただけじゃねえかよ。 「あ……アタシも入るぜー!」 「ボクも行きますっ!」 「リルちゃんが行くなら私も行きますよ〜」 と、悠に続いてみんな旅館の温泉へ行ってしまった。 一人残されるオレ。 「オレも風呂入って寝てやる……」 一人つぶやいて、バケツを持って立ち上がり、部屋へと向かった。 「あ、大坪さん、おかえりなさい」 「ただいま〜……って、未来ちゃん? どうしてここに?」 部屋に戻るとげっそりした顔で寝転んでいるショウと、そんなショウとは対照的になんかつやつやした満足そうな顔でショウに膝枕している未来ちゃんが居た。 「二人は祭り行かなかったのか?」 「おぉぉ……ハムナリ……よ、よく帰ってきてくれた……。未来、俺はハムナリと話があるから出て行ってくれ」 何か今にも死にそうな感じで返事をするショウ。 未来ちゃんを部屋から追い出そうとする。 「なんで? 私がいちゃ駄目なの?」 「あ、ああ……ハムナリと二人で話したい事があるんだ。頼む」 「う、うん。わかったよ翔君」 起き上がって未来ちゃんの肩に手を置き、真剣な顔で頼むショウ。 未来ちゃんは何故か顔を赤くして頷くと部屋を出て行った。 「で、未来ちゃんに出て行ってもらってまでしたい話ってなんだ?」 オレが尋ねるとショウは涙目でこちらを見た。 「お、おお俺だってみんなと行きたかったよ! バイト先からダッシュで旅館に戻ってきて、みんなを驚かせようと思って花火とかいろいろ用意してたんだよ。で、でもな……浴衣に着替えようと思ったら未来が戻ってきてな……こっちに来てからスキンシップが足りないとか言って、ヤバイと思って逃げたんだけど……アイツ追いかけてきてさ。そんで、お前らが祭りに行ってすぐに捕まっちまって……それからお前らが帰ってくるまで好き放題されてたんだよ……」 そこまで一気に、だけど感情を込めて言いきったショウ。 それを聞いてオレは…… 「未来ちゃんが? 嘘だろ……逆じゃねえの?」 信じていなかった。 だってそうだろ? 未来ちゃん可愛らしいし、ショウが我慢できなくなって未来ちゃんを襲ったってんなら信じられるけど、未来ちゃんがショウを襲った? はんっ、絶対嘘だね。 ……でも、嘘つく理由もないよな。 「う、嘘じゃね〜よっ! 未来はちょっとおかしいんだ! 超弩級のブラコンなんだよ!」 「おかしいとか、あんな可愛い妹に言うもんじゃねーよ。それにブラコンって、愛されてるなら良いことなんじゃないのか?」 「だ、か、ら、あいつはおかしいんだって! 兄としてじゃなく男として俺のこと愛してるんだぜっ!?」 「ははは……ショウ……お前疲れてるんだよ。ごめんな、ひ弱なお前に洗い物とか重労働させちまって……もう、今日はゆっくり休めよ」 「そ、そんな哀れんだ目で俺を見るなっ! や、優しくするんじゃねぇよっ!」 その日、オレは寝るまで生暖かい目でショウを見守った。 ☆ ☆ ☆ ――数日後。 「みんな準備は出来た〜?」 店長がオレ達に向かって言う。 オレはみんなを見渡して、 「出来てます」 と言った。……なんか修学旅行の班長な気分。 「それじゃ乗って〜」 それぞれ荷物を持ってバスに乗り込む。 まずショウが未来ちゃんに引きずられながらバスに乗っていった。 「一番後ろがいいぜーっ!」 その後に続いてルミナ、それからオレも乗った。 「ハ……ハムナリ……た、たすけ……」 バスの一番前の席……その窓側に座っているショウ。その隣、通路側に座った未来ちゃんがショウに抱きついていた。 ……ここ数日、祭りの日から、今までは気にしていなかったショウと未来ちゃんの関係を注意深く観察した結果……オレは祭りの日のショウの言葉を少しは信じていいんじゃないかと思い始めていた。 「お、おい――ハムナ――」 オレは目をショウに合わさないように通路を歩く。 「ふう……ショウも大変なんだな」 オレは一番後ろに座ったルミナの隣に座ってしみじみとつぶやいた。 「ナオヤさん、そこ良いですか?」 オレの隣……オレの荷物が置いてある席を指差してリルが言った。 「あ、ごめんごめん」 「すいません」 オレは謝りながら荷物をどかす。 「ああっ! リルちゃん! なんで大坪くんなんかの隣にっ!?」 最後に悠と一緒に乗ってきたさくらがリルに向かって言う。 ……大坪くんなんかって……なんかって……。 さくらはオレとリルの間に入ってこようとした。 「さ、さくら! 無理に入ってこないで! こっちが空いてるから!」 リルはさくらの腕をとって、オレと反対方向に押し込む。 「暑苦しっ……あたしはこっちにしとこ」 そんなオレ達を見て呆れ顔の悠は一つ前の席に腰掛けた。 全員座ったのを店長が確認して、バスは発進した。 「また来たいね〜!」 バスが動き出して数分、海を見ながらルミナが言った。 また来たい……か。 「ま、年に一回ぐらいならいいかもな」 「えぇ〜……もっと来たいぜー」 「やだよ……こんな疲れるイベントがしょっちゅうあったら」 「ナオヤさん、色々大変でしたもんね」 「リルこそ大変だっただろ。バイトも最初は厨房まで手伝わせちゃってさ」 「アタシも手伝ったぜー!」 「はいはい、そうですね。ありがとうございました」 「ボクは全然大丈夫ですよっ! 楽しかったです……その分ナオヤさんと一緒に居られましたし」 楽しかった、のあとに何か言った気がしたけど声が小さすぎて聞こえなかった。ただの気のせいかな? 楽しく会話するオレ達。 「ふぅ〜〜〜〜っ!」 ……何かオレを威嚇するさくら。 前の席の悠はバスが動き出してすぐ眠ってしまった。そのもっと前の席からは未来ちゃんの甘えたような声とショウの呻き声が聞こえてくる。 夏休みももう半分以上過ぎてるんだよなぁ……後半は穏やかに過ごしたいな。 窓の外の海を見てオレは思った。 |