祭り会場に到着。
 見渡す限りの屋台はどこまで続いているのかちょっと解らない。
 日が沈みかけ、祭り本番はこれからだろうというのに、既に屋台の並ぶ道には沢山の人達が歩いている。
 これは……相当規模のでかい祭りなんじゃないか?
 祭囃子まつりばやしの音や屋台を見て歩く浴衣姿の人達なんかを見てると、不思議とそれだけで楽しい気分になってくる。これが祭りマジックか……。
 
「ナオッ! あ、あれ、なにっ!?」

 みんなで歩いていると、ルミナが屋台を指差しながら聞いてくる。
 さっきから、歩く先にある全ての屋台について尋ねてくるから、鬱陶しくもある。まあ、だけど……初めての祭りだし仕方ないか。
 
「ナ、ナオッ!」
「今度はなんだよ?」
「あれ食べたい!」

 そう言ってルミナが指差した先には――たこ焼きの屋台。
 ……たこ焼きか。

「はいはい……おじさん、たこ焼き二つ」
「あいよ〜っ!」

 ルミナと自分の分を買う。
 
「美味しいね〜!」

 食べながら歩く。
 祭りとかで食べるとなんでこんなに美味いんだろう? 普段食べたら絶対そこまで美味くないだろうに……。
 
「あたし達の分は?」

 少し後ろを歩いていた悠がそんな事を言う。
 
「はぁ?」

 何でオレがお前の分も買ってやらなきゃいけないんだよ。
 
「はぁ、じゃねーわよ。ルミナに奢るならあたし達にも奢るのが筋ってもんじゃないの?」

 そんな筋はありません。
 大体、悠は大会で貰った賞金があるだろ……。

「そうだよっ! お前賞金貰ったんだから逆に奢ってくれてもいいんじゃないか?」
「嫌。それに賞金は全部貯金したし」

 本当にケチだよな……。毎日バイトもしてるのに、悠が金使ったとこなんて……見たことないかも。
 
「はぁ、そうですか……。リル食べる?」

 食べかけだけど、残っているたこ焼きをリルに渡そうとした。

「なんであたしじゃなくてリルなのよ!?」
「いやぁ……なんか悠に渡すのは負けた気がして」

 そんなオレに怒る悠。
 奢る気はないし、このまま悠に渡してしまうのは何か悔しい。だからリルにあげようと思ったんだけど……

「あ、あの、そんな……悪いですよ! ナオヤさんが食べてください!」

 リルは遠慮して受け取らない。
 
「あ……食べかけだし、嫌だった?」
「あ、いや、あの、そうじゃなくて……嫌とかじゃないです……」
「じゃあ、はい。食べて」

 ちょっと卑怯だったかな?
 でも、こうでも言わないとリルは受け取ってくれないだろうしね。
 
「あ、はい……あの、ありがとうございます!」

 笑顔で受け取ってくれたリル。その後ろから表情を全く変えずオレを見ているさくらが怖いけど……。
 
「リル〜あたしにも頂戴〜」
「あ、はい。どうぞ」

 口を開けて近づく悠にリルはたこ焼きを一つ楊枝ようじに刺して、悠の口に入れた。
 これは……オレがあげたことにはならないからな。
 心の中でそう思いながらリル達のやり取りを見ていると……

「ジ〜〜〜〜〜」

 と、擬音を声に出してルミナが目を細めてオレを見ていた。

「ど、どうした?」
「別に〜! …………あっナオ、あれ何?」

 目を細めたまま一言答えたあと、オレから顔を逸らしたルミナは何かを見つけて聞いてきた。そして、オレの手を引いて早足で、ある屋台の前までやってきた。
 そこは、

「金魚すくい……だな」
「金魚すくい?」
「ああ。水槽の中の金魚を、あの薄い紙を貼ったポイってやつですくうとその金魚を貰えるんだよ」
「へぇ〜」

 オレの説明を聞きながら、ルミナは金魚すくいをやっている男の子の後ろから、その光景を珍しそうに見ていた。
 ルミナは真剣にその男の子の応援をしていた。男の子がすくう金魚を選んですくおうとする時は手を握り締めて――片手はオレの手を握ったままだったから、オレの手を握る手に力を込めて――、ポイが破れてしまった時は男の子と一緒に悔しがっていた。
 
「……やるか?」

 なかなか離れようとしないルミナに声をかける。

「い、いいのっ!?」
「あ、ああ……別にいいけど」
「やるっ!」

 凄く嬉しそうに答えるルミナにお金を渡す。
 
「オジサン、アタシやる!」
「はいよっ! お嬢ちゃん」

 おじさんはお金を受け取り、ルミナにポイを渡す。
 受け取ったルミナは真剣な表情で水槽の中の金魚を選ぶ。

「急にどうしたんですか? 突然居なくなってビックリしました」

 その時、オレ達に追いついてきたリルに声をかけられた。
    
「ごめんごめん。なんかルミナが凄いやりたそうだったからさ」

 オレはルミナを指差して言った。
 オレの隣に立ってルミナを見るリル。

「へぇ〜、これが金魚すくいですか」

 金魚すくい自体は知ってたみたいだったリルも珍しそうに水槽の中を見ていた。

「リルちゃんもやりますか?」

 さくらが財布を取り出してリルに尋ねる。

「え……ボクはいいですっ! こういうの……苦手なんで」

 そう言って断るリル。
 その時―― 
 
「ここだぁ――っ!」

 ルミナが狙いを定めポイを水槽に入れる。
 そのまま物凄い勢いで金魚を救い出そうとする――まぁ、そんなやり方じゃ当然破れてしまったわけだけど。

「あぁ〜……駄目だったぁ」

 悔しそうに破れたポイを見つめるルミナ。
 たく……仕方ねぇなぁ。 
 オレはルミナの隣にしゃがみ込む。

「おじさん、一回ね」

 屋台のおじさんにお金を渡し、ポイを受け取る。
 
「いいか……まず、ポイは全体を水に漬けるんだ。濡れてるとこと乾いてるとこの境目が一番破れやすいからな。そんで……紙がノリでくっつけてある方が表なんだけど、そっちの面ですくうんだ」
「へぇ〜」
「水面近くの金魚を狙って……ポイは斜めに入れる……てりゃっ! こんな風にね」

 説明したとおりに動かして、金魚をすくう。

「おぉ〜っ!」
「ナオヤさん、凄いです!」

 お椀に入った金魚を見てルミナとリルが歓声を上げる。
 
「ナ、ナオッ! アタシも、もう一回やりたいっ!」
「ああ、いいぞ」

 答えておじさんにお金を払いポイを貰う。
 ルミナはさっきの説明どおり一度ポイを水につけて、狙う金魚を見定めていた。
 オレは……どうしよう……あんまりすくってもな。
 あ……そうだ!

「おじさん、これ破れてないし、他の子にやらせてもいい?」

 オレは持っていたポイをおじさんに見せながら尋ねる。

「おうっ構わね〜よ! 兄ちゃんじゃ一杯取られちゃいそうだからなぁ!」
「ありがとう。」

 普通はこういうのって駄目なとこが多いんだけど……おじさんがいい人で良かった。
 オレはお礼を言ってから、後ろに立っているリルに声をかけた。

「ってことで、リルもやってみなよ」
「えぇっ!? ボ、ボクがですか!?」
「うん。店の人も変わって良いって言ってるしさ。オレはもう一匹取ったから」
「あ、あの……わ、わかりました」

 オレはリルにポイとお椀を渡して立ち上がる。
 リルは今までオレの居たところにしゃがんで真剣に水面を見つめた。

「う〜ん、と…………えいっ!!」

 リルは水面近くに居た金魚を狙ってすくい上げた。
 金魚はポイからお椀の中へ……移すと同時にポイは破れてしまった。

「と、とれましたっ! ナオヤさん、さくらっ!!」

 お椀を後ろで見ていたオレ達に向けて嬉しそうに言う。

「うん。凄いなリル」
「凄いですリルちゃん! これは初めてリルちゃんが金魚をすくった記念としてお祝いしましょうか」
「は、はいっ! って、お祝い!?」

 喜ぶリルに何故か抱きつくさくら。
 ……お祝いってなんだよ。大げさな。
 
「む〜…………」

 リル達からルミナに視線を移すと、水槽をじっと見つめながらルミナがうなっていた。
 その視線を追う――

「ま、まさか――アイツを狙ってるのか!?」

 視線の先にいる金魚を見て驚く。
 
「…………い、今だぁ――っ!」

 そんな掛け声と共に、ルミナはソイツをすくいにいく。
 水の中から出てくるポイ……お椀の上にまで移動したところで紙が破れる。ポイに乗っていた金魚はそのままお椀の中に落ちる。

「と、とれたぁ――――っ!!」

 お椀を掲げ上げて叫ぶ。
 
「マ、マジかよ……すげぇな」
「ナオッ! とれた! なんかでっかいのが!」

 お椀をオレに見せて喜ぶルミナ。
 お椀の中には元気に泳ぐ出目金が入っていた。
 あ、あんなのオレもとったことねーよ……ポイを破るためだけに存在してると思ってた。
 
「あ、ああ……お前凄ぇよ」
「えへへ〜、ありがと〜!」

 ルミナは本当に嬉しそうにお椀の中の出目金を見ていた。


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