なんでだろう……。
 別にそれ程好きって訳でもない。
 まぁ、嫌いでもないし、どっちかと言えば好きなんだけど……。
 
「海だ〜〜〜っ!!」

 バスから降りて海を見つめていたルミナが叫ぶ。
 そう……海だ。
 何故、海ってだけでこんなにワクワクするんだろう?
 オレもバスを降りる。
 目の前に広がる海を見ると、なぜかさっきのルミナみたいに叫びたくなってしまう。
 ……恥ずかしいから叫ばないけど。

 予定通り、オレ達は海にやってきた。
 朝、店長が迎えに来てくれた時は本気でビックリした。
 ……みんなが乗れる大きな車で来るとは聞いてたけど、まさか旅行用の大型バスで来るなんて想像もしてなかったから……普通想像出来ないだろ。しかも運転超上手ぇし。
 朝早くに家を出て、今はもうすぐ昼って時間だ。
 結構遠くまで来た訳だけど、バスの中ではみんなでワイワイ騒いでいたからあっという間だった気がする。
 海に着いて、ルミナが降りて近くで見たいと言った。だから休憩ついでにバスを止めた。

「おい、ルミナ! そろそろバスに戻るぞ」
「うんっ!」

 海を眺めているルミナに近づき声をかける。 
 オレがバスを降りたのはルミナをバスに連れ帰るためだった。   
 もう少し行ったところにオレ達の働く海の家があるらしい。そろそろ休憩を終わりにしてそこへ向かう。
 今日、明日とそこを掃除して、開店はその次の日からだという事だ。

「遅いぞっハムナリ!」

 バスに戻ると、中で待っていたショウが文句を言ってきた。
 
「なんで……お前居んの?」
「今頃ですかっ!?」

 朝、迎えに来てくれたバスに乗ると、そこには既にショウが乗っていた。
 オレと一緒に乗ったルミナとリルにちょっかい出そうとして、即効でさくらにボコられて前の方の席にロープでグルグルに縛り付けられたショウ。
 ……ここに着くまであえて声はかけないでおいた。
 
「そりゃお前……昨日やっと補習が終わったんだ。それで朝市で店に行こうとしたらお前等が海に行くって聞いたんだよ、だから俺も来た」
 
 俺も来たって……なんてタイミング良く補習終わってんだよ。
 店ってのは、喫茶店のことだろうけど……コイツにそんな情報与えたの誰だよ……。
 オレは運転席の店長をチラリと見る。

「公也君だけじゃ男手が足りないし……彼には奴隷のように働いてもらいましょっ」

 店長はとてつもなく輝いた笑顔でオレにしか聞こえないぐらいの小さな声でそう言う。
 ……奴隷って。
 オレはショウを見る。

「俺だってみんなと遊びたいんだよぅ……ひと夏の思い出作りたいんだよぉ〜!」

 必死に叫ぶショウ。
 ……哀れだな……お前。ひと夏の良い思い出なんて出来ないと思うぞ……忘れられない夏のトラウマなら出来るかも知れないけど。

「まあ……頑張れ……負けるなよな」
「負け? 何……? え……何!?」

 オレはショウの肩を叩いて元々座っていた後ろの方の席へ移動する。
 
「ちょ――どういうことっ!? せめてロープ解いて!!」

 微妙に泣きそうな声で叫ぶショウ。
 それを無視してオレとルミナが席に座るとバスは動き出した。
 

 ☆ ☆ ☆

 それから十数分海沿いを走るとバスは止まった。

「みんな降りて〜、着いたわよ〜」

 店長の声を聞いてオレ達はバスから降りた。
 
「で、店の建物ってどこですか?」

 オレは店長に近づいて尋ねた。
 
「ん? どこって……そこにあるじゃない」

 店長は少し先の方を指差して言った。
 
 …………。
 ………………え?

「そこって……どう見ても廃屋にしか見えないボロボロの木造建築物が見えるだけですけど?」
「ええ、そうね」

 そう言って店長はオレの肩をぽんっと叩いた。
 そして……

「掃除…………頑張ってねっ!」
 
 そう言った。
 掃除って…………。

「コレを……ですか? それってもう掃除じゃないですよね。修繕ってかリフォームのレベルですよね」

 屋根、壁はボロボロ。
 きっと中も相当なものだろう……。

「とにかく行ってみましょうか」

 店長は言ったあとスタスタと廃屋に向かって歩いていく。
 オレ達もそれに続く……

「あっ……先に行っててくれ」

 オレはみんなにそう言い残しバスに戻った。
 
「ぐす……ひっ……ハ、ハムナリィ〜……」

 中に入ると縛られたまま忘れられていたショウが醜い顔で泣いていた。
 ……正直引く。
 だけど、オレはショウのロープを解かなきゃいけない。

「ハムナリ〜……やっぱりお前は親友だぁ〜!」

 ロープを解いてやるとショウは嬉しそうに抱きついてきた。
 ショウの事を助けてやった理由……それは店長の言っていた男手が必要ってやつだ。
 あの廃屋を見ていたら……きっとオレ達が直す事になるんだろうな、と思った。
 だからオレはショウをその気にさせないといけない……少しでも自分の負担を減らすために。
 店長は多分……いや、絶対このためにショウを連れてきたんだろう。
 オレは抱きつくショウを引き剥がして、

「お前の力が必要なんだ。協力……してくれるか?」

 オレはバレないように自然に苦しい顔を作って言う。

「あ、当たり前だろ! 親友じゃないか……」
「ショウ……ありがとう」
「当然だぜっ! 何だって言ってくれ」

 そう言って再び抱きついてくる。
 ふっ……甘いな、ショウ。
 オレはこの為に一人で帰ってきたんだよ。みんなで来たんじゃあ、お前はこれ程オレに感謝はしなかっただろ……だからみんながバスを離れるのを待ってから来たんだ。
 悪い奴だと思うか……? でも、オレには店の修繕が終わっても料理長としての仕事があるんだよ。ショウには何も無い……だからここで頑張ってもらっても良いだろ?
 ショウと抱き合いながら、ちょっと罪悪感もあってオレは心の中で言い訳していた。


 ☆ ☆ ☆

「うおぉぉぉぉぉぉ!!」

 気合の掛け声と共に物凄いスピードで屋根を修繕するショウ。
 こんなに真剣に働くショウをオレはかつて見たことがない。
 オレはその間に室内の掃除をする。
 中にある物は外観と同じくボロボロで使い物になりそうもなかったけど、幸いな事に量はなかったのですぐに外に運び出せた。
 あとは店長達が戻ってくるまでに床や壁を掃除するだけだ。
 店長は新しいテーブルとかを買いに行ったんだけど……何も女全員で行く事ないんじゃないか?

「うおっほあぁぁぁぁ!!」

 屋根を修理し終わったショウは奇妙な声を上げながら今度は壁を直し始めた。
 何かオレも負けてられない気持ちになってきた。

「んぬっはあぁぁぁぁ!!」

 オレも奇声を上げて床を磨き始めた。
 
 一時間後――

 店は見事に直っていた。
 外観は素人が直したにしては立派だし、中はピカピカだ。

「……すごいわね」

 買い物から戻ってきた店長もこんなに早く終わるとは思ってなかったのか驚いていた。
 この人のこんな顔は初めて見た……何か新鮮。
 張り切りすぎた……オレとショウは店の前の浜辺に寝転がっていた。
 …………メチャメチャ暑ぃ。

「――――つめてっ!」

 急に首筋に冷たいものが当てられる。

「飲み物買ってきたぜー!」

 ルミナが缶ジュースを持ってオレを覗き込んでいた。
 
「おお……ありがと」

 受け取って一気に飲む。
 くぅ〜……乾いた身体に染み込むぜぇ。
 ……ヤベッ、何か今のオレ、夏の男っぽくなかったか?

「じゃあ、買ってきた物入れちゃうから公也君達は休んでて」
「いや、手伝いますよ」

 気遣ってか店長はそう言ってくれたけど、何か疲れてるとはいえ女の子達だけにやらせるのは悪い気がして立ち上がる。
 ショウも同じく立ち上がっていた。
 そして――

「うおっほあぁぁぁぁ!!」
「んぬっはあぁぁぁぁ!!」

 また、奇声を上げ、結局オレとショウで殆ど運んでしまった。
 
 店長は早くても今日は終わらないと思っていたそうだ。
 頑張ったご褒美にと、明日一日自由にして良いと言った。

 その夜――
 泊まるところは店長の知り合いらしい人の旅館だった。
 飯を食べて風呂に入ったあと、オレとショウが泊まっている部屋にみんなが集まっていた。

「ナオー、明日一緒に泳ごーねー!」
「あ……ああ…………」
 
 嬉しそうに言ってくるルミナ。

「し、死ぬ……須藤……助け」
「死ね……。ねぇ、さくらも新しい水着買ったの?」
「はい、勿論です」

 オレとショウは張り切りすぎて身体中が筋肉痛。
 明日の事を楽しそうに話す女の子達とは対照的にオレとショウは寝そべって呻き続けていた。


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