「……ほんと……申し訳ないっス」

 人一人が座れるほどの大きさの岩の上……そこにオレは正座していた。
 平ら……なわけではなく、でこぼこで所々尖っているそこはそれだけで既に拷問だった。
 さらにオレの顔はボコボコになっている。
 いや、顔だけは目に見えてるってだけで全身ボロボロなんだけど……。

「本当に反省してますか? 事故だなんて言い訳するなんて最低だと思いませんか?」

 オレの前に仁王立ちで説教する、さくら。
 その横にはルミナ。
 さくらと一緒にオレを殴っていたルミナだったけど……途中から若干引いたように、ただ見ているだけだった。
 さくらの恐ろしさに口を挟むことも出来ないで可哀想な目をオレに向ける。
 
「あ、あの……さくら。ボク、もう気にしてませんから……そのぐらいで」
「――リルちゃんは黙ってて。こういう事はちゃんとしないと駄目なんですよ」
「……は、はい」

 泣きやんだリルが心配そうにオレを見る。
 リル……あんな事をしてしまったオレを心配してくれる。
 殺されかけた、さくらによるリンチもリルが止めてくれたし……本当に、なんていい子なんだ。

「大坪くん……どうなんですか!?」
「ハイ……言い訳とか、男らしくなかったっス。ホント最低だと思います」

 正座したまま下を向いて答えるオレ。 
 さくらの顔は怖くて見れない。

「リルちゃんのお願いだからやめましたけど……あんな事して生きていられるだけで幸せなんですよ?」
「そうっスよね。自分幸せっス……」

 もう、何度同じような事を言われただろうか。そろそろ足も限界だ。
 それに……いつの間にかやってきていた悠に店長。さらにショウともう一人女の子。
 面白そうにこの状況を見ていた。
 特にショウは物凄くニヤニヤしている。
 ……なんかすっげぇムカつくんですけど。

「ちゃんと聞いてますか!?」
「き、聞いてます……なんかもう、ホント申し訳ないとしか」
「謝ってすむ問題だと思ってるんですか? 大坪くんは、この世で一番してはいけないことをしたんですよ?」
「ホントそうっス。自分、人間として最低っス。もう……いっそ殺して欲しいっス」

 足の痛みで自分が何言ってるかほとんど解ってない。
 岩の上に正座ってだけでもキツイのに尖ってるんだもん。刺さってるもん。
 
「さ、さくらっ、もう良いってば!」

 リルはオレとさくらの間に入ってとめてくれた。
 
「ナオヤさん……大丈夫ですか?」
「リ、リル……」
 
 手を差し伸べてくれるリル。
 オレは感動しながら差し伸べられた手を――

「リルちゃんに触らないでください」

 取ろうとして伸ばした手をさくらに叩かれた。
 その勢いで岩から落ちる。

「さくらっ! ボクからやったことなんだからナオヤさんは悪くないでしょっ!?」

 リルの怒る声が聞こえる。
 オレは立ち上がろうとした。
 したんだけど――

「あ……あれ? うおわっ!」

 痺れた足でまともに立てるはずもなく……ふらふらと変な動きをしたあと、また倒れる。
 それを何度も何度も繰り返す。

「あははははは! 変! てかキモッ!」

 そんなオレを見て爆笑する悠。
 そ、そんなに笑うことないじゃないか……。
 
「ぶふっ……ハ、ハムナリ……お前はあれか? 生まれたての馬か?」

 一緒になって笑うショウ。

「う、うるさいよ」

 なんでちょっと恥ずかしい気持ちになってんだよ……オレ。
 言い返しながら座っていた岩に掴まって立ち上がる。
 足の痺れも大分収まってきた。 
 立ち上がってみると、やっぱり足から血が出ていた。

「ナオヤさん大丈夫ですか?」

 心配してくれるリル……リルを守るように間に立つさくらのおかげでオレとの距離は離れてるけど……。

「さ、さすがにやり過ぎた? ごめんね」

 やっと口を開いたルミナが言う。
 
「いや、大丈夫……それにお前がつけた傷なんてほとんどないから」

 オレの身体中の傷はほぼ全てさくらによってつけられたものだった。
 ルミナも一緒になって殴っていたけど、傷つかない程度に加減してくれてたみたいだった。相当痛かったけどね。

「そう……ホントに大丈夫?」
「心配するぐらいなら最初からやらなきゃいいのに……」
「それはそれだよ!」
   
 そう言い切るルミナ。
 
「ところでナオ」
「なんだ?」
「あと残ってるのはアタシ達とはるちん達だけみたいだよ」
「そうなのか? 他のチームは?」

 ルミナの言葉で今がゲームの途中である事に気付く。

「それは、あたし達が倒したからよ!」

 その疑問にオレとルミナの話を聞いていたらしい悠が答えた。

「倒したって……全部?」
「勿論! 楽勝だったわ!」

 そう言う悠と店長には確かに疲れとか、傷とか何も見えなかった。

「あれは本当にすごかったぜ……」

 しみじみと言うショウ。
 
「それで最後にあんた達を倒しにきたらこの状況だったってわけ。簡単に倒せそうだったけど面白そうだったからずっと見させてもらってたわ」

 面白そうって……確かに面白そうに眺めてたけど……あの拷問を。

「じゃあ、これから勝負するのか?」

 悠に向かって尋ねる。

「そうよ! あ……ちょっと待って」

 そう言うと悠はわき腹の辺りにつけていたバッジを外し――

「さあ、勝負よ!」

 それを胸のところに付け替えた。
 
「ちょ――なんでっ!?」
「なんでって?」
「卑怯だぞ! そんなの!」
「卑怯? 勝つために最善を尽くすのは当然のことでしょ?」

 こ、こいつ……最悪だ。
 
「ル、ルミナ!」

 これはルミナに戦ってもらうしかない。
 オレには……さっきの事件が無かったとしても攻撃できない。

「む、無理だぜー」

 ちょっと焦ったルミナの声が聞こえてきた。
 そっちを見ると、

「うふふ。悠ちゃんに勝たなきゃ優勝できないわよ〜」

 店長がルミナを羽交い絞めにしていた。
 どうやら、オレと悠を戦わせたいらしい。

「ってことでソリャァァァ!」
「うおぉぉぉっ!!」

 悠の拳をかわす。
 拳を放った勢いのまま、オレの腕につけているバッジめがけて蹴り……それもしゃがんでかわす。
 なんとか悠の攻撃をかわすが、オレから攻撃は出来ない。

「ハムナリ!」

 その時――ショウがオレを呼んだ。
 ショウを見る。
 ショウは親指を立て、爽やかに――

「揉め!」

 と、言った。
 
「一人揉むのも二人揉むのも関係ねぇ! 揉んじまえっ!」

 バ、バカかアイツは……揉めって……。
 
「で、出来るわけないだろ!?」

 ショウに向かって叫ぶ。

「お前なら出来る!」
「出来ねぇよっ!!」
「もらったぁ!」
「――えっ!?」

 ショウに気を取られてる間に近づいていた悠にバッジを叩かれてしまった。
 オレのバッジから音が鳴る。

「あ……ま、負けた……」

 こ、こんな呆気なく……。
 膝が落ちる……そのまま地面に手をついてうな垂れた。
 
「あ〜あ……負けちゃったぜー」

 店長から解放されたルミナもがっかりしていた。
 
「あっははは! これで賞金はあたしのものよっ!」

 悠は嬉しそうに笑っていた。
 
「今回はかなり気合入れてたのに……」

 やっぱり……オレって結局こういう人間なのか……。
 やる気になっても上手くいかない……いいとこまではいけるのが、さらに厄介だよな。

「ナオ……まぁ、元気出して……」 
 
 近づいてきたルミナがオレの肩に手を置く。
 励まされると……余計ツライんですけど。いつもみたいに冗談っぽく、バカな事言ってくれたほうが全然楽なのに……なんでこういう時だけ真面目なんだよ、ルミナ。

「いつか……良い事あると思うよ?」
 
 ぎ、疑問系かよ……。

「そ、それ以上なにも言わないでくれ……余計落ち込むから」
「う、うん……わかった」

 ルミナはそれ以上なにも言わなかった。

「あはははは! 百万円!」

 その場には悠の喜ぶ声が響き渡っていた。
 こうして、大会は終わった。 
 明日からは海の家も始まるし落ち込んではいられない……んだけど、やっぱり悔しかった。


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