| リルをウチで預かる事になって二日目の朝。夏休み初日。 朝食を済ませたオレ達はやる事も無く、テレビをつけてボ〜っとしていた。 家の事もリルが手伝ってくれたおかげで物凄く早く終わってしまった。 ルミナは夏休みってことにはしゃぎ過ぎて昨日、夜遅くまで起きていたらしく、今はソファーで早めの昼寝をしている。 「リルは大丈夫? ルミナに付き合わされてたんだろ?」 オレは床に直接座ってお茶を飲んでいるリルに尋ねた。 「はい……大丈夫ですよっ!」 リルは元気良く返事をしてくれるが……あまり元気がない、というか落ち込んでいるみたいだった。 昨日ウチに来た時には既にこの状態だったんだけど……。 昨日、さくらがリルを預かって欲しいとこの家にやって来た時、リルは留守番ぐらい一人で出来ると抵抗していた。 勿論オレも留守番ぐらいリル一人で十分だと思う。 だけど、さくらはリルを一人にするのはどうしても不安らしかった。 さくらがリルを溺愛しているのは知ってるけどいくらなんでも心配しすぎじゃないのか、とオレが言ったところ物凄い剣幕で「何かあってからじゃ遅いんですよ!」と、なぜか怒られてしまった。 そんな訳で、結局預かる事になったんだけど……リルは自分は信じて貰えてないんじゃないかと落ち込んでしまった。 ……ただ普通に心配してるだけだと思うんだけどね。 そう言ってもリルは落ち込んだままだった。 ……もしかしたらルミナが夜更かししたのはリルを元気付けようとしてあげてたのかもしれない。 「ボクはもっとさくらの役に立ちたいです……」 リルがお茶の入ったコップを見つめてそんな事を言った。 役に立ちたい……って、 「十分役に立ってるだろ。家事とかだって全部リルがやってるんだよな?」 「そうですけど……それも半分は自分の為ですから」 半分……さくらに料理を作らせない為ってことか。 それでも十分なんじゃないのか? 「なんでそんなに……」 オレの質問はリルの言葉によって 「ボクはさくらの事、大好きですから」 だからもっとさくらの役に立ちたい、とリルは続けた。 本当に良い子だな……リルは。 なんとかしてあげたくなっちゃうじゃないか……。 「よしっ! どっかに行こう」 「え……? どうしたんですか? 突然……」 「家に居てもやることないし、それに折角の夏休みなんだから、さ」 突然そんな事を言い出すオレにリルは驚いた顔を向けた。 落ち込んでる時に家でじっとしてたって気が滅入るだけだ。外に出て気分転換すれば何か思いつくかもしれないし、家でウジウジ悩み続けるよりいいだろう。 「お〜い、起きろルミナ。出掛けるぞっ!」 「んにゃ……」 「おはよ〜……」 寝惚けた瞳で本日二度目の朝の挨拶をするルミナ。 「はよ起きれ。出掛けるぞっ」 「出掛け…………マジー!?」 「うおっ……急に正気に戻るなよ。マジだ。用意して来い」 「わかったぜー!」 出掛けるという言葉に即、目の覚めたルミナは元気良く部屋に走っていった。 「リルはいいのか?」 「はい、ボクはこのままで良いですよ」 「そっか」 オレはルミナが戻ってくる間に、空になったオレとリルのコップと、ほとんど中身の残ったままのルミナのコップを流しに運んだ。 ☆ ☆ ☆ 駅の商店街で服などの買い物をしたあと、オレ達はいつもの喫茶店へと来ていた。 その喫茶店、今日は珍しくショウが居なかっ……あ、補習か。 オレ達も最近良くここを利用する。悠ももう慣れたのか何も言わなくなったし、何よりここのご飯はこの辺りでも一番と言っていいほど美味い。 オレはカツ丼、ルミナがチャーハン、リルはパスタをそれぞれ注文した。 メニューもファミレス並に豊富で、和洋中何でもある。 「あんた達も暇ね。夏休みの初めから来るなんて」 料理を運んできた悠が嫌味っぽく言ってきた。 「うるさいよ……店員がお客さんにそんな口聞いて良いのかよ。てかさすがに夏休みだよな。凄い客の数だ」 一応文句を言いつつ店内を見渡した。 サラリーマンの数はいつもとたいして変わらないが、学生であろう若い客がいつもの倍以上だ。 「ホントにね……夏休みなんだからこんなトコに来ないでどっか遊びに行けっての」 「こんなトコってどういうこと〜?」 客にたいして言いたい放題の悠の背後から、なんの気配もなく店長が現れた。 「て、店長っ!? あたしは何も言ってないですよ?」 「ふ〜ん……じゃあ悠ちゃんは私の幻聴だとでも?」 「そ、そうじゃないですかね……店長も歳なんじゃないっすか?」 焦り過ぎてかなりキワドイ事を言う悠。 「時給……下げようかな?」 「すいませ〜ん! 仕事に戻りま〜すっ!」 店長から逃げるように悠は仕事へと戻っていった。 あの悠を簡単に負かしてしまうとは、さすが店長だな。 「いらっしゃいルミナちゃん」 悠が仕事に戻ったのを見届けると、今の悠とのやり取りが嘘のようにニコヤカに店長が話しかけてきた。 「美味いぜー!」 料理を食べながら店長に言うルミナ。 「ありがとー。で、ルミナちゃんウチで働く気になった? もう忙しくて忙しくて人手が足りないのよ〜……」 店長はルミナを勧誘しながら困ったように言った。 それは、あなたが自分好みの子しか雇わないから自業自得ですよ。 口には出さないが心の中で思っておく。 この店長はバイトを雇う基準が好みか好みじゃないかの二択だ。そりゃあ、店員もなかなか増えない訳だよな。 「…………アルバイト」 「どうした……リル?」 店長を見て何かを呟くリル。 「あら……あなたも滅茶苦茶カワイイわね〜。どお? ウチで働かない?」 リルの顔を両手で挟むように掴んでマジマジと見ながら言った。 「あの…………やりますっ!」 リルはそう答えた。 その瞳はやる気に満ちていた。 ……バイトして……家にお金入れようとでも思ったのかな? 「リル、ホンキ〜?」 「本気っ! やります!」 ルミナの問いかけにも即答だった。 「ホントにっ!? 嬉しいわ〜、じゃあ早速着替えましょっ!」 「はいっ!」 子供のように瞳をキラキラ輝かせ、店長はリルを連れて店の奥に行ってしまった。 「ナオ……いいの?」 「良いんじゃないか? リルが決めた事だし、オレに反対する理由はないよ」 そんな事をルミナと話して、少し時間がたった頃、店長と共にメイド服に着替えたリルがやってきた。 「大坪君、ルミナちゃん、どう思う? 凄く可愛らしいと思わない?」 リルの背中を押してオレ達の前に立たせると店長が尋ねてきた。 「あ、あの……どうですか?」 ちょっと恥ずかしそうに聞いてくるリル。 ……いや、うん、凄く可愛いと思います。 「に、似合ってる……よ」 「あ、ありがとうございますっ!」 オレの言葉に笑顔になるリル。 周りの客もみんなリルを見てる。 「…………」 「な、なんだよ?」 メイド姿のリルを見ているとルミナがジ〜っと、何か責めるような視線でオレを見つめていた。 「店長! アタシもやるぜー!」 暫くの間オレを見つめていたルミナが急にそんなことを言い出した。 「あら〜今日はホントに良い日ね! ついでだから大坪君もやる?」 なんか、ついでに勧誘されてしまった……。 「やるって……メイドをですか? オレ男ですよ」 やる訳ないだろ……常識的に考えて。 そんな姿を悠やショウに見られたら一生からかわれる事 「厨房よ厨房。大坪君がやりたいなら女装してもいいのよ? 大坪君なら相当可愛くなると思うわよ〜」 そんな事絶対するもんかっ! でも厨房か…………それならやってみてもいいかもな。 ルミナ一人でやらせるのも心配だし。 「とりあえず夏休みの間だけでも……やってみない?」 夏休みの間だけ、か。 まぁ、夏休み中ルミナの無茶に付き合わされるよりずっと良いか。 「わかりました……とりあえず夏休みの間だけ」 「はい決定〜! じゃあみんなこっちにきて〜」 そう言った店長のあとにオレ達三人はついていった。 |