「暑っちぃ〜……」

 オレは机に突っ伏して呟いた。
 季節は夏。
 明日から学生にとって最大の楽しみである夏休みだ。
 つまり今日は終業式ということだ。
 クソ暑い体育館での式も終わり、残すはHRだけとなった。
 
「あぁ〜通知表なんて無くなればいいのにな〜」

 ブツブツ言いながらショウがやってきた。
 
「通知表ぐらいで大げさだな」
「何てことを言うんだハムナリ! 成績次第では夏休みに学校に来て補習受けなきゃいけないんだぞ!」

 なるほどね……つまり補習の危険があるような成績なんだな。
 オレは頬杖をつき大きな溜息を吐いてショウから目を逸らした。

「オレには関係ないな」
「アタシにも関係ないぜー!」
「だよな」
「うんっ!」

 ショウと話しているとルミナが元気良く混ざってきた。
 オレは授業は一応ちゃんと受けてるし、テストの成績だって平均点は超えている。ルミナにしても、普段バカな事ばかりするくせにオレよりも成績は上だ。
 つまり、補習なんて関係ない……って事だ。

「う、裏切り者ぉ――――っ!! 何か二人だけで解りあった雰囲気まで出しやがってえぇぇ!」

 ショウは泣いて叫びながら教室を飛び出していった。
 …………これからHRなのに何処に行くんだよ。
 それに裏切り者ってなんだよ……仲間になった覚えはないぞ。
 
「暑っちぃ〜な……」

 もう一度同じ言葉を呟いて窓の外に目を向ける。
 セミの鳴き声がやけにうるさく感じる。
 今年はセミが異常発生しているのか、それとも今まで住んでいた所よりセミが多い地域なのだろうか?
 まぁ、でも、セミの鳴き声は嫌いじゃない。
 夏だと感じさせてくれる物のひとつだし、な。

「何黄昏たそがれてんのよ……」

 悠が胸元を開け、ノートを内輪代わりに風を送りながら話しかけてきた。
 
「別に黄昏てなんか……それより、お前少しは恥じらいってものがないのかよ」

 本当に……悠は男の前でも平気でこういう事をする。
 
「ははは、なにそれ?」

 笑いながら言う悠。
 コイツにはそんなモン無いよな、聞いたオレが馬鹿だったよ。
 
「はいは〜い! HR始めるわよ〜!」

 そのとき、そんな声と共に香奈ちゃんが教室へ入ってきた。
 どこかで捕まったのだろう、ショウも引きずられながら入ってくる。

「明日から夏休みですね! みんな羽目を外しすぎないように…………」

 香奈ちゃんが『夏休みの心得』という事務的な話をする。
 正直、毎年同じような話を聞くのはダルイ。
 
「…………と、つまらない話はこの辺にして、みんなが待ってた通知表を配るわよ〜!」

 やけに楽しそうに香奈ちゃんはオレ達生徒に通知表を見せつける。
 クラスの八割方から悲鳴のような声が漏れる。
 このクラス、成績悪い奴がこんなにいるのかよ……。
 
「補習は緋山くん他五名で〜すっ!」
「何で俺の名前だけ発表するんだよっ!?」
「そ、れ、は、君が一番成績悪かったからよっ!」

 文句を言うショウに人差し指をズビッと突きつける香奈ちゃん。
 それ以上何も言えなくなるショウ。……てかお前、そんなに成績悪いのか。
 テスト前に勉強教えたりもしてやったのに……もうアレだな、馬鹿の天才だな。自分で言ってて意味解らないけど、意味解らないショウにはピッタリだ。
 そんなやり取りもありつつ、通知表はみんなに配られた。
 オレはまぁ、普通よりは上ってぐらいだった。ルミナは多分クラスでも相当上に位置するであろう成績だった。

「それじゃみんな、良い夏休みを〜!」
『は〜い』

 香奈ちゃんがそう締めくくると生徒達もそれに合わせて返事をする。
 ……ここは小学校ですか?

「さて、と……帰るか」
「うんっ!」

 ルミナと二人、下駄箱へ向かう。
 いつもはリルとさくらも加えて四人で帰っているんだけど、今日さくらは職員室に呼ばれていてリルもそれを待つので先に帰っていて欲しいと、朝言われた。
 
「昼はどうする? どっかで食べてくか?」

 靴を履き替え、校門を出たところでルミナに尋ねる。

「駄目だぜー! ダディー、今日は家に居るんだよ?」
「あっ……そうだったな」
「早く帰らないと焼き鳥になっちゃうぜー!」

 焼き鳥……ヤベェ、本気でありそうで怖い。

「よしっ、急いで帰るぞ」
「おぉ〜!」

 オレ達は早足で家に向かった。
 頼むから焼き鳥になんてならないでください……なったらなったで美味しくいただけるかもしれないけど。


 ☆ ☆ ☆

「ルミナ〜、ネギ切れたか〜?」
「うん、完璧だよー!」

 足早に家へと帰ってきたオレ達はダディーが焼き鳥になってない事を確認して、昼飯の準備に取り掛かった。
 冷蔵庫にはたいした物は無く、何処にも寄らずに帰ってきたため昼は夏らしくそうめんにすることにした。
 オレが麺を茹でている間にルミナにネギを切ってもらったんだけど……最近、ルミナはグンと女の子らしくなってきた。
 家事全般をよく手伝うようになった。
 脱いだ服をそのまま散らかしておくこともなくなったし、洗濯も自分で干したりする。
 特に料理はルミナも楽しんで手伝っているらしく、焼く、茹でるとか基本的な事は勿論、大きさは不揃いながらも野菜を一人で切ったり出来るようにまでなった。
 そんな風に変わってきたのは宇宙から帰ってたあとぐらいからだろうか?
 まぁ、女の子らしくなって家事を手伝ってくれたりするようになったのは嬉しいんだけど、女の子らしくなったことで何気ない仕草でドキッとさせられる事も増えたのが事実だ。
 …………正直、これには少し困ったりもした。
 今ではかなり慣れてきたけど、さ。

「ダディー、出来たぜー!」

 茹で上がったそうめんを冷水の入った器に入れテーブルへと運びながらルミナがダディーを呼んだ。
 三人揃ったところで食べ始める。
 やっぱ夏はそうめんだよな。
 オレは食べながらそんな事を思っていた。
 
「……なんだよ?」

 一口食べて器からそうめんを取り出そうとしたときに、ルミナがこちらの様子を伺っていることに気づいた。

「お、おいしいっ?」

 妙に真剣な眼差しで問いかけてくるルミナ。
 なんだ…………ああ、ルミナが切ったネギか。
 オレはめんつゆにネギとそうめんを入れる。
 ルミナが切ったネギは大きさがバラバラだったりするが、それ程大きな差は無く、一生懸命切った事が解る。

「ん……美味いよ」

 それを口に入れ、味わってから飲み込み、そう言った。
 ネギぐらいで大げさだな、なんて思いつつも、ついそんな風に感想を言ってしまう。

「にゃはは……当然だぜー! アタシが切ったんだから!」

 ルミナは照れたように笑ってそう言ったあと、ガツガツと食べ始めた。
 これも最近解ったことなんだけど、ルミナは照れるとよく食べたり、他の事に集中する。
 そんなに照れるなら聞かなきゃいいのに……とかオレは思ったりするんだけど、ルミナは何度も聞いてくるんだよな。

 食べ終わり食器を洗っていると呼鈴が鳴らされた。
 
「ルミナ、出てくれ〜」

 水を使ってるしいちいち手を拭くのも面倒なのでテーブルを拭いていたルミナに出てくれるように頼む。

「わかったぜー!」

 そう言ってルミナは玄関へ向かっていった。
 すぐに洗い物も終わり、オレはリビングへ行きテレビをつけた。

「ナオ〜、さくらんとリルが来たよー!」

 玄関から戻ってきたルミナが言った。
 さくらとリル? 遊びにでも来たのかな……。

「お邪魔しますね」
「おじゃまします、ナオヤさん」

 言いながらさくらとリルがルミナに続き入ってきた。

「おお、適当に座ってくれ。お茶でも持ってくるよ」
「ありがとうございます」
「ボク運ぶの手伝いますっ」

 リルは座らずにオレについてきた。
 手伝って貰うほどの事でもないけど、折角だし……リルにコップを渡し、オレは冷蔵庫から麦茶を取り出しリビングへ戻る。

「実は大坪くん達にお願いがあるんです」

 お茶を出すと、それを一口飲んださくらは凄く真剣な顔でそう言った。

「お願い?」
「はい……実はですね、私は今日から一週間程家を空けるんですよ」
「へぇ〜、里帰りかなんか?」
「ええ、そんなところです。でもリルちゃんは連れて行けないんです。……そこでお願いなんです」
「どういう事だ?」

 良く解らない……一週間出掛ける用があって、それにリルを連れて行けない事とオレに頼みたい事って関係なさそうなんだけど。 

「その間、リルちゃんを預かって欲しいんです!」

 いつものほほんとしているさくらにしては力を込めて真剣な表情だった。
 …………はい?
 リルを預かる……ウチで?

『えぇ――――っ!?』

 オレとルミナがさくらの言った内容を理解して驚きの叫びをあげたのはほとんど同時だった。


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