オレと少女は顔を見合わせたまま動けないでいた。
 オレは不法侵入者が部屋でくつろいでいたことに驚いて。
 少女は多分……大声を出しながら千歳飴を握り締めた男がいきなり入ってきた事に驚いて。
 少しの間、二人とも固まったままだったが、だんだんと冷静に今の状況について考えられるようになってきた。
 少女が、勝手に人の荷物からテレビを出して見ていた事とか気になる事は沢山あるが、とりあえず一番の疑問はこの子は誰で何故ここに居るのかだ。
 まず、何と言って話しかければいいのか……。
 金髪だし……日本語で通じるのか?
 でも、顔は日本人っぽいんだよな。
 
「もしかして……この家の人?」 
「そ、そうだけど……」

 普通に聞かれて、反射的に返事を返すオレ。
 つ〜か普通に日本語だよ……。
 一人で悩んでたオレがバカみたいじゃないか。

「おかえりっ!」

 オレがこの家の人間だと分かると少女は笑顔でそう言ってきた。

「あ……ただいま――って、そうじゃなくて!!」

 普通に挨拶してどうすんだよ!?
 この子は一体なんなんだ!? なんでこんなに普通にしてるんだよ?
 普通、こんな時って慌てて逃げたりするもんなんじゃないのか? 不法侵入していた家に家の人間が帰ってきたんだぞ!?
 
「大体お前は何者なんだ!? なんでオレの家にいる?」

 とりあえず一番聞きたいことを問いかける。
 
「アタシはルミナっ! この子はダンディーだよっ。ダディーって呼んでねっ」

 自分を指差して名乗ったあと、今まで肩に乗っていた黒いひよこみたいなやつを差し出してきた。それはやたらと眼つきが悪かった。
 
「いや、ペットの事は置いといて……」

 そんな事より名前は分かった。
 次は何故ここにいるか……だ。それが一番の疑問。

「私はペットではない」

 聞こうと思った時、どこからか低く渋い声が聞こえてきた。

「え…………?」

 オレはキョロキョロと辺りを見回す。

「どこを見ている。私はここだ」

 声のした方を見るが、そこにいるのはルミナと名乗った少女だけだ。

「もう一度言う。私はペットではない」

 いや、正確には少女とペット……黒いひよこみたいなのがいる。
 そして喋っているのは彼女の肩に戻ったそいつだった。

「…………」
「どうしたのだ」
 
 固まってしまったオレにそいつは不思議そうに聞いてきた。

「しゃ、しゃべったっ!!」

 ひ、ひよこがしゃべった!?
 というかひよこ!?

「そりゃあ喋るよ〜っ! ダディーだもん♪」
「うむ」

 少女の言葉に頷く黒いひよこ。 
 オレは目の前で起こっている事が理解できない。
 なんなんだ!? これは。
 オレは不思議の国にでも迷い込んでしまったのか……?
 だってありえないだろ……。
 家に着いたら金髪の少女(不法侵入)がいて、そのペット? の黒いひよこが喋るなんてさ……。

「まあ、とりあえず座れ。落ち着いて話をしよう」
「あ、はい……」

 オレは黒いひよこに言われるがまま、その場に腰を下ろした。


 ☆ ☆ ☆

「つまり話をまとめるとこうか……。お前達――ルミナとダディーは宇宙人で、ルミナは親と喧嘩した。そして家出をするためにワープ装置をつかったらこの部屋に辿り着いた。でも適当に弄ったせいで装置は壊れて帰ることも出来なくなって途方にくれていた……と」
「その通りだぜー!」

 オレがまとめるとルミナは満足げに言った。
 あ、オレが二人を名前で呼んでるのはそうしないといちいち突っ込んできて話が進まなかったからだ。
 ――というか。

「信じれるかぁぁぁっ!!」

 オレは叫んだ。
 宇宙人? ワープ? 
 ありえないだろ!

「だが事実だ」

 ダディーが冷静に告げる。

「そんなヤツラがなんでテレビ見ながら寛いでたんだよ!? 帰れなくなったんなら普通はもっと焦るもんだろ!?」
「はいは〜い! それはアタシが説明するぜー!」

 嬉しそうに手を上げるルミナ。
 ……何がそんなに嬉しいんだか。
 オレは無言で先を促した。

「装置が壊れているのを知ったアタシ達は悩みました。これはアタシ達じゃ直せない。どうしよう……。あっ、テレビ発見。この星は面白い番組あるのかな? お笑い番組? あはははっ! 何コレ、オモシロー! ガチャッ、「誰だー!」って感じ」

 …………。

「もっと悩めよっ!」
「イタァーッ!!」

 思わずルミナの頭を叩いてしまった。

「おかしいだろ!? 悩んでからテレビにいくのが早すぎだろ!」
「え〜……だって悩んでどうにかなる事じゃないし」
「そうだろうけど……でも!」

 上手い事言い返せないけど、もっと悩むべきだろう。
 家に帰れなくなったんだぞ?
 ……二人の話をまるっきり信じれば、だけど。

「だから、当分ここに住ませて」

 …………は?
 何かおかしな言葉が聞こえた気がする。

「悪い。もう一回言ってくれ」
「だから、ここに住ませて」

 うん。聞き間違いじゃなかったみたいだ。
 
「…………帰れ」
「だから帰れないんだってば!」
「帰ってください。お願いします」
「言い方変えても無理だから♪」

 くそっ! やっぱ無理か!
 でも、得体の知れないヤツラを「はい、そうですか」と住ませる訳にはいかない。

「こんな美少女のアタシと一緒に住めるんだから迷う事ないのに――イタイ!」

 何かむかついたから千歳飴投げつけてやった。
 自分で美少女とか言うなっての。

「キサマァァァァァ!」

 すこすこすこすこっ!

「いたいいたいいたいっ!!」

 ダディーにくちばしでつつかれる。

「ルミナの頼みを断っただけでなく、暴力まで振るうとは!」
「ぼ、暴力って……」
「次はこの程度では済まさんぞ」

 そう言うとダディーはルミナの肩に戻っていった。
 
「はぁ……追い出されたアタシは行く当てもなく街を彷徨い、悪い人たちに捕まって色々されちゃうんだ……。その時アタシはこう思うの。『あの人は悪くない。家出なんてしたアタシが悪かったんだ。あの時すぐに追い出さずに話を聞いてくれただけでアタシは嬉しかったんだよ』って」
「ル、ルミナっ! お前はなんていい子なんだ! 私は何が何でもお前を守るぞ」
「ありがとう……ダディー」

 そして一斉にオレを見る。
 ……何これ?
 なんかオレが悪いみたいじゃね?
 オレにどうしろってんだ? 
 
「くそっ……少しの間だけだぞ! どうせ出てく気なんかないんだろ!?」

 弱い……弱すぎるよ、オレ。
 もっと抵抗するべきだろ……。
 治らねーな……ながされやすい性格。
 
「わ〜っ! アリガト〜!!」

 言いながら抱きついてくるルミナ。
 うわっ! な、なんかやわらかい物が当たる……。
 オレも男だ……やっぱり気になる。

「そういえば名前聞いてなかったね?」
「公也。……大坪公也だ」
「よろしくね! ナオ〜♪」

 ナオって……女みたいじゃねーか。
 それからはっとした様にオレから離れたルミナ。
 胸元を手で隠しながらこう言ってきた。

「……やっぱりアタシの体が目当てなの?」
「出てけ――――――っ!!」

 オレは力一杯ルミナの頭を叩いてやった。
  

  


 


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