ルミナの転校初日――。
 一緒に住んでる発言のおかげでオレは休み時間の度に男共に追いかけられる事になった。しかも、最初はクラスの連中だけだったのに時間がたつにつれその数はどんどん増えていた。

「はぁ……はぁ……はあっ!」 

 今は昼休み。
 ヤツラは昼飯も食わずオレを追いかける。逃げるためにオレは朝作った弁当を持って教室を飛び出した。 
 無我夢中で走り、追っ手が来ないのを確認して座り込む。
 ……それにしても、ここどこだよ?
 夢中で走ってきたからどこをどう来たかなんて覚えてない。
 立ち上がると近くにある建物に近づき中を覗いてみる。
 中には剣道の防具が置いてあった。どうやらここは剣道部の道場みたいだ。
 とりあえずここで弁当を食べようと道場の壁にもたれ掛かり、持っていた包みを開ける。

「う…………っ」

 食べているとオレの背後の壁、そのちょっと横にある道場の窓からずっとこっちを見ている女子生徒が居た。
 その女子生徒は練習していたのか胴衣を着て長い黒髪を頭の上辺りで縛って纏めていた。まあ、美人ではある……あるんだけど表情ひとつ動かさないから怖いんだよ!
 ……すごい、食べずらいんですけど。
 だって無表情でず〜っと見られてんだよ!? 
 
「な、なにか?」
 
 耐えられなくなって話しかけてみた。

「………………」

 視線を上げオレの目を見るが、すぐに視線を下げる。
 彼女の視線を追うとそこにはオレの食べている弁当がある。
 
「…………っ!!」

 オレは箸を反対に持ち替えて弁当箱からから揚げを取り彼女のほうへ差し出してみた。
 一瞬驚いた顔をしたがすぐに元の無表情に戻るとオレとから揚げを交互に何度か見た。

「…………ぱくっ」

 た、食べた――っ!
 ……なんか餌付けしてるみたいだ。
 から揚げを飲み込むと彼女は初めて笑顔を見せた。それから道場の奥へと消えてしまっって、ここからは見えなくなった。
 な、なんだったんだろう?
 気にしながらも残りの弁当を一気に食べる。

「いたぞぉぉぉぉっ! 大坪公也だぁ〜〜!!」

 弁当箱を包み終えると同時にそんな叫び声が聞こえた。
 叫んだ男はそのままオレに向かって走ってくる。
 相手は一人、ここは仲間が来る前に逃げないとっ!
 逃げようと立ち上がるが男はもう目前まで迫って来ていた。
 は、はやっ!!
 
「しねぇぇぇぇっ!」
 
 男が拳を振り上げる。

「く…………っ」

 殴られる……オレは目を瞑り歯を食いしばる。

「――――うぎゃっ!!」

 いつまでたってもやってこない衝撃、代わりに男のそんな声が聞こえてきた。
 
「あ…………え?」

 目を開けるとオレの目の前にはさっきの女子生徒が竹刀を持って立っていた。
 彼女の前に先ほどの男も転がっている。

「た、助けてくれたのか?」

 問いかけると彼女はオレの目を見た後コクンと頷いた。

「あ、ありがとう……」
「…………逃げた方がいい」

 オレから目を逸らし彼女がそう言った。
 彼女の視線を追うと、他の連中が集まってきていた。

「みたいだね……今度ちゃんとお礼するから。じゃっ!」

 オレは彼女にそう言い残しその場から全力で離れた。


 ☆ ☆ ☆

「はぁ〜…………な、長かった」

 やっと授業が終わり放課後。
 今日は本当に休める時間が無かった。
 また追いかけられる前にさっさと帰ろう。

「待ちな……ハムナリ」

 帰ろうと席を立った瞬間ショウに肩をつかまれる。
 
「……な、なんだよ?」
 
 振り返るとそこには笑顔のショウ。
 
「このまま無傷で帰れるなんて思ってないよな?」

 笑顔のまま言うショウ。
 オレはいつの間にか集まって来ていた男子に囲まれていた。

「ナオ〜帰ろうぜ〜!」

 その男子達を掻き分けてルミナが現れた。

「ナオく〜ん! 一緒に帰ろ〜♪」

 そしてどこからか真奈美さんまで現れた。
 
「ルミナは良いとして真奈美さん……仮にも学園長が帰宅部の生徒と同じ時間に帰っていいんですか?」
「仮って何よ仮って! 私はれっきとした学園長だよ?」

 なら仕事をしてください。

「ハムナリ……お前、学園長にも手ぇ出してたのかよ」

 肩をつかんでいるショウの手が震えている。

「やっぱり殺〜〜す!!」

 オレを殴ろうとするショウは涙を流していた。
 
「ぐぎゃっ!」
「ナオくんをどうするって?」

 ショウは真奈美さんにブン投げられて黒板に激突した。
 つーかこの人……今、片手で投げましたよね?
 
「皆ちゅうも〜〜くっ!」

 真奈美さんは吹っ飛ばされ倒れたショウに乗っかり教室の男子達に声をかけた。
 注目する男子。

「ナオくんに何かしたら退学か、それかぁ……殺っちゃうゾ♪」

 清々しいぐらい爽やかに言い切った。
 片手でショウをブン投げたのを見ていた男子達は何も言えなかった。


 ☆ ☆ ☆

「学校楽しかったぜー!」
「オレは散々だったよ」

 家に帰ってからルミナはずっとキッチンで晩の支度をするオレの背後で喋っている。
 手伝いもしないで後ろに立たれると凄い邪魔なんだけど……。

「お昼一緒に食べようと思ってたのに、どこいってたんだよ〜?」
「……お前のおかげでマラソンしてたんだよ!」
「さくらんとはるちんも待ってたのにー……」 

 一瞬、道場で会った彼女を思い出した。
 なんとなく、言わない方がいい気がしたので黙っておく。
 悠とも仲良くなってたのか……二人が揃うとオレが苦労する事になりそうな予感がするんだけど、最近嫌な予感って外れないんだよな。
 てか、は……はるちんって! 笑いで指切りそうになったじゃないか!
 よしっ! 明日オレもそう呼んでみよう。
 ……後が怖いけど。

「明日は一緒に食べようぜーっ!」

 言いながらルミナは背後からオレの首に手を回してきた。
 …………重い。
 これは抱きついてるんじゃない……そう、ぶら下がってやがる。

「わかったから、ぶら下がるな。重いだろ」
「やだ〜。なんかコレ気に入ったぜー!」

 なんて迷惑なやつなんだ。
 こんな事気に入るんじゃねーよ。

 結局、オレが料理している間中ルミナは首にぶら下がっていた。


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