「ここが俺んチだぜっ!」

 ごく普通の二階建ての一軒家。
 それを親指で指差して得意気に言う翔。

「何なのよ……そのテンションは。鬱陶しいわね」
「なんせ家族と妹の友達以外の女が家に来るなんて初めてだからな! 何か変にテンション上がってるんだぜっ! 一応須藤も女だか――ぐはっ!!」
「一応って何!? あたしは正真正銘、女よっ!」

 翔の不用意な一言に悠の鉄拳が炸裂する。翔はそのまま後ろに吹っ飛んでいった。
 ……なんと言うか、本当に学習しない男である。

「そ、そうですよね……失礼しました」

 倒れたまま苦しそうな声で謝る。

「殴ってから聞くのはアレだけど……買った物は無事?」
「……俺の心配はしてくれないんですね」

 言いながら涙を流す翔。
 悠は、そんな翔を無視して彼の傍らに落ちた買い物袋の中を確認していた。

「よし、中は無事ね!」
「俺が無事じゃないんですけど……」
「さぁ! 家に入るわよ!」
「無視ですか……解ってたけどね……」

 道路に翔の涙で水溜りが出来ていく。
 悠は買い物袋を持つと翔を置いて家の扉を勝手に開けて入っていこうとする。

「ま、待って……置いてかないで」

 焦った様に立ち上がり翔も家へと入っていく。
 
「ただいま〜」
「おじゃましま〜す」

 入る前に声をかけるが当然返事は無い。
 そのまま二人は廊下を進み突き当たりにある扉を開け部屋に入る。
 そこはリビングで奥にはキッチンも見える。そのままキッチンまで進み買ってきた物を冷蔵庫に入れる。 

「何か作る前に妹さんに会わせなさいよ」
「二階の部屋で寝てるはずだよ」
「案内しなさい」
「解ったよ…………メンドクセーな」

 ブツブツと文句を言いつつ案内する翔。
 
「こっちは俺の部屋だから絶対入るなよっ!?」

 階段を上り、右側の扉を指差して翔が言った。
 
「……入りたくないって、あんたの部屋なんか」
「そんな言い方されると入れたくなるのは何故だろう……? ってことで、見るか?」
「絶対嫌……何か怪しい物とかありそうだし」
 
 悠はそう言って本当に嫌そうな顔をして翔の部屋の扉を見つめる。

「それよりさっさと案内しなさいよ」
「わかったよ……こっちだ」
「あんたの妹っていくつなの?」
「確か今年小六だ」
「確かって何よ確かって!」

 そんな事を話しながら翔の部屋の反対、左側の扉へと向かう。
 そこには可愛らしい文字で『未来みく』と書かれたボードが吊るされていた。
 
「未来〜無事か〜?」

 病気の妹を朝から放っておいたくせに実に軽い口調で扉を開ける翔。
 
「あっ……翔君……おかえりなさい」

 布団から顔を出し返事をするその声はとても苦しそうなものだった。 
 
「あんた、妹に翔君なんて呼ばれてんの?」
「う、うるさいな! やめろって何回言っても直さないんだよ!」
「翔君……お客さん?」
「初めまして、未来ちゃん」

 翔を押し退けて未来の前に立ち笑顔で挨拶する悠。
 喫茶店でバイトしている時ぐらいしか見る事の出来ない程の満面の笑みだ。
 もしかすると、悠は小さい子供が好きなのかもしれない。

「お前、風邪で動けないし、飯作りに来てくれたんだよ」
「朝から何も食べてないんでしょ? すぐに作ってあげるから。食欲はある?」
「はい……あります」
「じゃ、ちょっと待っててね! あんたも手伝いなさいよ!」
「いてぇよ〜……引っ張るなって」

 それだけ聞くと悠は翔の耳を引っ張って部屋を出て行った。
 

 ☆ ☆ ☆

「やっぱり風邪の時は消化に良い物ね」

 キッチンに立ちエプロンをする悠を見てニヤけた顔をする翔。

「…………何?」
「いやぁ〜……そんな格好してると須藤も女の子だなぁ〜って思って」
「だから、あたしは女だってのっ!」

 悠は手に持っていたニンジンの先端で翔の喉を突いた。

「ゲホッ――いたい、マジで痛い!」  

 のた打ち回る翔をよそにテキパキと準備を始める悠。
 その様子からして、家事に慣れているのがうかがえる。

「いつまで転がってんの!? あんたも手伝いなさい!」
「はいっ! 何をすれば良いのでしょうか? ……ふざけんなよ……いつか絶対ぇ痛い目にあわせてやっからな」
「ブツブツ言ってないで、さっさとするっ!」
「わかりましたぁっ!」

 そんなやり取りをする二人の様子はクラスメイトというよりは鬼教官と出来の悪い部下といった感じだ。
 
「お米ある?」
「昨日余ったのが冷凍庫にあるぞ」
 
 言いながら冷凍庫から一食ずつに分けて冷凍された物を取り出す。  

「じゃあおじやね。食欲あるって言ってたし味付けて卵とか入れてもいいかな?」
「良いんじゃね? てかお粥とおじやってどう違うんだ?」
「お粥は精米に水を多めにして炊いた物でおじやはご飯を煮込んだ物」
「へぇ〜……よく知ってんな」
「無駄話はいいから、これ切って」

 そう言って翔に野菜を渡す悠。
 翔が野菜を切ろうと包丁を持つが、その手つきは危なっかしく、いつ怪我をしてもおかしくないぐらいの不器用さだった。
 呆れた様子で翔を止め、怒りながらも親切に包丁の使い方なんかを教えている悠。
 そんな状況を見ると、悠が後輩に人気があるのも頷ける。

「出来たっ!」
「いただきますっ!」
「あんたのじゃないわよ!!」

 この二人のやり取りはまるでコントのようだ。
 悠は悲しそうに物欲しそうに出来た料理を見つめる翔を無視して、料理と水や薬をお盆に載せエプロンを脱ぐ。

「あんたはこっち!」
「こ、これは――――素うどんっ!?」
「あたしは未来ちゃんの所に行くからあんたはそれでも食ってな!」
「ちょっと酷くね? 食うけども」

 文句を言いつつうどんをすする翔。
 それを見て、お盆を持ち悠は未来の部屋へ向かった。


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