「そういえば、担任の紗枝嶋さえしま先生ってどんな人だ?」

 クラス発表の掲示板で見たこのクラスの担任、紗枝嶋という先生について隣に座る悠に尋ねる。
 
香奈かなちゃんの事なら俺が説明するぜっ!」

 答えたのは悠ではなく先ほど悠に気絶させられた男子生徒だった。
 ……いつの間に復活したんだろう。

「紗枝嶋香奈。独身、彼氏無し。学園教師の中、いや、学園の生徒達を加えてもトップクラスの容姿で男子生徒達からの人気は抜群だ」
「へぇ〜……そうなんだ」
「あと、誰も香奈ちゃんの年齢を知らないんだ。前に調べようとした新聞部の部長がいたんだが……調べ始めた次の日から彼は3日間姿を消し、その間の記憶を失っていたんだ」
   
 なんか都市伝説みたいな話になってきたな……。

「そんな謎の多いところも人気の秘密なんだぜ!?」

 ……いや、オレは怖いんだが。

「そういえば、まだ自己紹介してなかったな。俺は緋山翔ひやましょうだ。ショウって呼んでくれ!」
「ああ、オレは大坪公也」
「なおやか……どんな字書くんだ?」

 なんで字なんか気にするんだろう?
 まあ、いいか。
 オレは紙に書いてショウに見せる。

「公也って書くのか……じゃあ、ハムナリなっ!」
「…………は?」
「だからハムナリな! そう見えるじゃん!」

 公がハムってことか……。
 
「……好きにしてくれ」

 オレは諦めていた。
 おそらく嫌だと抵抗しても無駄だろう。
 この学園……まともな常識ある人間は少ないに違いない。

「はいは〜いっ! 皆席についてね〜!」

 その時、教室の扉が開き、そんな声と共に一人の女性が入ってきた。
 
「このクラスの担任の紗枝嶋香奈よ。香奈ちゃんって呼んでねっ♪」

 こ、この人……どこかで……って!

「あ〜〜〜〜〜!!」
「そこ、うるさいわよ……て、あ〜〜〜〜!」

 立ち上がって声をあげたオレを注意しようと目があった瞬間、紗枝嶋先生叫ぶ。
 間違いないっ!
 この人は…………あの日、交番に居た女だ!

「あなたは……どこかで会った事あったかしら?」
「へ? だってさっき叫んだじゃ――」
「なんのこと?」

 どういう事?
 忘れてるのか? でもさっき気付いてたよな?

「あの時のって紗枝嶋先生ですよね? たしかしょうわひぃ!?」
「な・ん・の・こ・と・か・し・ら?」

 気付かないうちに紗枝嶋先生はオレの目の前まで来ていた。
 笑顔だが考えている事が伝わってくる。
 「空気読めよ、テメェ」と……。
 てかめちゃめちゃ怖いんですけど!?

「…………か、勘違いでしたっ!!」

 オレがそう言うと紗枝嶋先生は満足げに頷いた後、教壇へ戻ろうとする。

「あ、それから香奈ちゃんと呼びなさい」

 戻る途中紗枝嶋先生が言う。

「え……? でも『ちゃん』って歳じゃ――」
「ん? なにか?」
「なんでもないですっ! では香奈ちゃんと呼ばせて頂きますっ!!」

 こ、怖ぇよ……。
 香奈ちゃんに年齢の話はしちゃいけない。
 オレは思ったね、新聞部部長の話はきっと事実だと。
 下手したら消されるんじゃないか?
 
「は〜い。今日はこれで終わりだけど、明日からは授業あるからね〜!」

 しばらく教科書を配ったり、これからの話があったりしたが、一時間もしないうちに終わった。

「じゃーなっ! ハムナリ」
「おう、じゃあな」

 挨拶と同時にショウは教室を飛び出していった。

「アタシも部活あるから行こっと。さくら、またね!」
「はい、さようなら」
 
 悠も出て行く。
 オレは残ったさくらに思いを込めて視線をやった。
 さくらがオレを見る。
 
「では、案内しますよ。学園長室」
「あ、ありがとうっ!!」

 さすがだよ! さくら。
 言わなくても分かってくれるなんてっ!
 さくらと出会わせてくれた神様、ありがとうっ。

「行きましょうか」
「あ、ああ」

 さくらの後について教室を出る。
 

 ☆ ☆ ☆ 

「私は部活がありますので、ここで」
「うん。ありがとな」

 学園町室まで案内してもらい、さくらと別れる。
 目の前にある扉を見る。
 他の物より大きい。上には学園町室と書かれている。
 オレは制服を正し扉をノックする。

『は〜い?』
「大坪です」
『入っていいわよ〜!』

 それを聞いて扉を開ける。

「失礼しま――――」
「ナオく〜〜ん! 会いたかったよ〜!!」

 入った瞬間抱きつかれた。
 
「え? …………え?」

 意味が分からず、何も出来ない。
 
「久しぶりだねっ! ナオくん」

 オレから離れると彼女はそう言った。
 今、目の前にいる人物は確かに体育館で見た新しく学園長になった女性だ。
 近くで見るとさらに小さかった。

「ひ……久しぶりって?」

 ……………。
 オレの言葉を聞いて学園長は黙る。
 オレを見つめる。
 
「えぇ〜〜〜〜〜っ!!」

 長い事無言でオレを見つめていた学園長が突然叫んだ。

「私のこと忘れちゃったの!? あんなに愛し合ったのに!?」
「あ……愛し合った?」
「ナオくん酷いよ〜〜〜! うわ〜〜〜んっ!」  
 
 学園長は泣き出してしまった。
 こんなに小さい子に泣かれると困る……いや、歳はオレより上なんだろうけどさ。
 というか、愛し合ったって何!?
 全く覚えてないんですけど……。
 もしこの人と会った事があるなら子供の頃だよな?

「うわぁぁぁぁぁっ!! ナオくんのバカ〜〜!」

 うわぁ…………。
 こんなに泣かれると考え事も出来ない。とりあえず泣き止んでもらわないと……。

「よ……よしよし……」

 はっ!?
 見た目のせいで、つい子供をあやすみたいに頭を撫でてしまった。
 よ、余計怒らせちゃったかも……。

「ぐす……ぐす……ずっ」

 おぉ、泣き止んだ。
 本当に見た目通りの人なのかも。

「ずっとナオくんに会えるの楽しみにしてたのに……」
「ご、ごめんなさい」
「ホントに覚えてないの?」
「…………全く。イテッ」

 頭を軽く小突かれた。
 
「まぁいいや。これから思い出してくれれば」
「はぁ……努力します」

 と言っても思い出す事なんて出来そうもないけどね。
 
「ここに呼ばれたのってその事でですか?」
「それもあるけど、他にもあるよ〜」
「なんですか?」
「一緒にかえろっ!」
 
 学園長の言葉が理解できない。
 一緒にかえろ? 帰るってどこに?

「私もナオくんの住んでるアパートに住むからさっ! 管理人として」

 えぇ!?
 管理人って……あのアパートって学園長のものだったのか!?

「え、あの…………」
「愛しのナオくんが変な女を連れこまないように見張らないとね!」

 眩しいほどの笑顔でそう言う学園長。
 ヤ……ヤバイッ!!
 ウチにはルミナがいる……。
 ど、どうしよう?

「いざ、私とナオくんの愛の巣へ〜〜!!」

 学園長は準備万端といった様子でもう行く気みたいだ。
 あ、あはははは……。
 もうオレにはどうしようもない……、なるようにしかならないさ。

「さ、案内して!」
「は、はい……」

 そしてオレは学園長と共に学園をあとにした。
 


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