さくらは宇宙船を降りるとすぐに家に入ろうとした。
 だけど、やっぱりオレと同じく外に出てきてしまった。 

「これは……何かの術がかけられてるな。普通に入っても無駄だろう」

 それを見たダディーが言った。
 さくらもオレ達の方に戻ってきた……んだけど、俯いてぶつぶつ呟いてるのは怖すぎるんだよね。
 いつものさくらに戻ってください……そんなさくら見たくないです。

「そうなんだよ。何回入っても外に出てきちゃうし、リルだけは中に入れたっぽいんだけどさ。どうにかして入る方法ない?」
「ふむ…………」

 さくらが怖いってのは、この際置いておいて……いや、多分リルに会うまでどうにも出来ないし。
 さくらを見ないようにダディーに問いかける。
 オレの質問に家を見ながら考えていたダディーは何も言わないまま家の周りを一周飛んで戻ってきた。

「どうやら術がかかっているのは家全体ではなく扉や窓といった出入り出来る場所だけのようだ。……それにしても……この術」

 言いながらルミナの頭に着地するダディー。最後の方に何か呟いていたみたいだったけど、それは聞こえなかった
 そんな事より、それってつまりどこからも入れないって事か?
 
「ならどうしろっての?」
「入る方法はある」 
「だったら早く教えてください」 
 
 今までぶつぶつ言っていたさくらが急に会話に入ってきた。

「つまり窓や扉以外から入れば良い訳だ。時間があれば術を解く事も出来るがそんな時間は無いのだろう?」

 確かにリルが心配だしな……。
 それに……今のさくらと長い時間居るのは辛いし。ルミナはここに来るまでずっと一緒だったんだよな。無事に家に帰れたら美味しい物でも食わせてやろうかな。

「ど、どうやって?」

 扉や窓以外って……じゃあ、入れないじゃん。
 
「うむ。ルミナ」
「んにゃっ!? なに?」

 頭にダディーを乗せボ〜っとしていたルミナは突然声をかけられてビックリしていた。
 ダディーはルミナに何やら耳打ちしている。  

「おっけ〜だぜー! ナオにさくらん、二人とも宇宙船に乗って〜」

 耳打ちが終わるとルミナは笑顔で言った。
 宇宙船…………何で?
 まあダディーの事だし、何か考えがあるんだよな……。

「で、乗り込んだはいいけど、これからどうすんの?」

 宇宙船に入った後でダディーに聞く。
 
「普通には入れないからな。このまま壁に突っ込む」

 ……さりげなくなんて事を言うんだよ。
 
「それって中に居るリルは危険じゃないのか?」
「大丈夫、だいじょ〜ぶっ! それにもしぶつかってもリルなら死なないって」

 リルがタフなのは知ってるけど……そんなに?
 てか、ぶつかってもいいと思ってんのか……お前。

「じゃ、行っくぜー!!」
「ちょ、心の準備が――」

 オレの言葉を無視してルミナは宇宙船を動かした。


 ☆ ☆ ☆

「ギ、ギリギリセーフ……」
「チッ……もう少しだったのに」
「何で舌打ちしてんの!? 本気でぶつける気だったのか?」

 壁を突き破って、見事に家の中に入る事が出来た。中にはやっぱりリルが居て、宇宙船はリルにぶつかる寸前でギリギリ止まる事が出来た。
 ……リルと対峙している男がこの家の主か?
 魔女って女なんじゃないのか?

「……あいつは……まさか」

 ダディーはその男を見てそう呟いた。

「知ってる奴か?」
「いや……昔会った事のある人物に似ていただけだ」
「そう……。とにかく降りよう! リルもすぐそこに居る――」

 オレが言い終わる前に、既にルミナとさくらは宇宙船を降りていた。
 ……一言くらい声かけてくれたっていいじゃんか。

「リル、無事か!?」

 とにかく、ルミナ達に続いて宇宙船を降りてリルの元へ。
 
「ナオヤさん……一応無事です」
「よかった。何か術とかのせいでオレだけ家に入れなかったみたいで」
「それならあの魔女のせいですよ」

 リルは男を指差して言った。
 ……そうじゃないかとは思ってたけど、本当にあの男が魔女なのか。

「薬は……あったのか?」
「はい。アイツが持ってます」

 言いながらリルは魔女を睨みつけていた。
 リルがルミナ以外にこんなにあからさまな敵意を向けるなんて……余程の事があったに違いない。

「だったら、さっさと貰って帰ろう」
「……それが……」

 オレの言葉にリルは気まずそうにしていた。
 ……何なんだ? 何かまずい事言った?
 もしかしてリルでも買えないほど高価なのか?

「この薬が欲しい?」

 リルを見つめていると魔女が液体の入ったビンを振りながら言った。
 なんだろう……一言だけだけど凄い嫌な感じがした。

「あげても良いよ」
「タダで……か?」
「うん。そのかわりその子とその子、頂戴」

 魔女はルミナとリルを交互に指差した。
 は……? 頂戴って……何言ってんの?

「それじゃ薬貰っても意味無いだろ」
「さっきからあの人そればっかりなんです。ボクとルミナが欲しいって」

 なっ――ほ、欲しいって……。
 
「プ、プロポーズ……?」
「違いますっ!」
 
 ツッコむリルは何故か凄い必死だった。
 それほど嫌なんだな。

「……プロポーズ?」

 ゆらぁ〜って感じにさくらが動き出した。

「な――っ!?」
「さくらっ!?」
「さくらん凄いぜー!」 
 
 オレ、リル、ルミナとそれぞれ驚きの声をあげる。
 なぜなら動き出したと思った次の瞬間、さくらは魔女の顔面を鷲掴みにしていたからだ。

「欲しいって……何をフザケタ事言ってるんですか。リルちゃんは渡しません。リルちゃんに手を出すと握りつぶしますよ? このまま、ね」

 こ、怖ぇ――――っ!!
 何!? さっきまでと比べ物にならないぐらい恐ろしいんだけど!?

「ふふ、君も凄い力を持ってるね……それに」

 顔面に指がめり込む程の物凄い力で掴まれているのに涼しい声でそう言いながら、さくらの指の隙間からダディーを見ていた。

「そこの黒い鳥さんまで居るんじゃあこっちが不利だね。だから……」
「――あっ!」

 その時驚きの声をあげたのはさくらだった。
 鷲掴みにしていた魔女がいつの間にかさくらの手から消えていたからだ。さくらの手には変わりに薬のビンが握られていた。

「逃げる事にするよ。薬はあげる」

 声のした方を見ると、魔女は宇宙船で突き破った壁の向こうに浮いていた。
 
「チャンスはいくらでもあるからね。そのうちそこの二人は貰いに行くよ」

 そう言い残すと魔女は完璧に消えてしまった。
 

 ☆ ☆ ☆

「戻ったぜー!」
「戻りましたっ!」

 薬を飲んで数分。
 二人は元に戻る事が出来た。

「で、リルの宇宙船壊れたしどうする?」

 二人が戻ったところでこれからの事を話し合う。
 ルミナ達の宇宙船は無事だし、帰るのはそれで帰れば良いんだけどさ。

「一応リルん家には壊れた事言いに行った方がいいよな? それからルミナの家に宇宙船返してから地球に戻るか?」
「あっ!!」

 オレがそう言った途端ルミナが叫んだ。
 
「そ、そうだった……。ねぇナオ?」
「なんだ?」
「ウチには寄らないで、そのまま宇宙船で地球に行くっていうのは……」
「無理。大体ドコにこんな物置く気だよ?」

 オレは宇宙船をコンコン叩きながら言う。

「ううぅ〜……でも……来る時はリルの姿だったから良いけど今はアタシの姿なんだよ?アタシ家出してるんだよっ!?」
「ボクは家出じゃないから、ちゃんと今のボクの状況説明してさくらも紹介したいですし」
「リルちゃんのお義父様に紹介!? う、嬉しい。リルちゃんが私の事、そんなに想ってくれてたなんてっ!」

 何か……お父さんの漢字が違う気がするんだけど……オレだけ?

「地球でお世話になってるって紹介するだけですよ!?」
「もぉ〜可愛い〜!!」

 さくらに抱きしめスリスリと頬擦りされるリル。
 ……このぶんじゃ当分会話には戻ってこれないな。

「お前もちゃんと親に説明しろよ。このまま地球に住むにしろ帰るにしろちゃんと親と仲直りしとけ。……オレだって一応挨拶ぐらいしとかなきゃ、だし」
「挨拶…………娘さんを僕に下さい?」
「違うわっ!!」
「ふみゃっ!?」

 思いっきり頭をはたいてやった。
 いきなり何言い出すんだコイツは……。

「一緒に住んでるし……保護者代わりとして挨拶しないと駄目だろ」
「ナオはアタシの保護者なの?」

 目を潤ませて上目遣いにオレを見つめるルミナ――って、

「何を雰囲気出してんだっ!?」
「うにゅっ!? ナオは冗談が通じないぜー!」
「とにかく! 仲直りとまではいかなくてもお互い納得できるように話し合え!」
「う〜…………わかった」

 ふぅ……オレも挨拶考えなきゃなぁ。
 ルミナのお義父さんか……って、何か字が違うぞっ!!
 な、何かの間違いだからな! オレはそんな事思ってないぞ!

「ナ〜オ〜ヤ〜〜〜!!」

 …………この声は……まさか。

「ワタシのナオヤ――――ッ!」

 段々近づいてくる。
 
「皆! さっさと宇宙船に乗れ! すぐに出発するぞ!」
「え〜……まだ心の準備がぁ」
「リルちゃん可愛い〜」
「やめてくださいぃ〜」
「さっさと――乗れぇぇぇぇ!」
「は、はいっ!」

 オレの叫びに全員が声を揃えて返事をして宇宙船に乗り込んでいった。

「先程までのさくら以上の気迫だったぞ」

 ダディーもそう言い残し宇宙船に入っていった。
 そりゃそうだ、死ぬのとは違うタイプの恐ろしい身の危険を感じてるんだから。
 
「出発だ――――っ!」

 オレの声に合わせてルミナが宇宙船を発進させる。
 窓から地上を見るとさっきまでオレ達の居た場所に、あの変態が居た。
 ……マジで危機一髪だったようだ。

「じゃ、リルとさくらを送ってお前の家に行くぞ」
「い、嫌だけど……わかったぜ〜……」

 ルミナは嫌そうな顔をしながらもちゃんと言う事を聞いてくれた。
 さくらはリルの家に着くまでずっとリルを抱きしめて頬擦りしていた。


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