| ピピピピッ、ピピピピッ! 「ん…………」 朝。 うるさく鳴り響く目覚まし時計を止め、布団から身体を起こす。 まだ眠い目を擦りながらクローゼットを開け、今日から通う桜花学園の制服を取り出して着替える。 洗面所で顔を洗うと、やっと完全に目が覚めた。 「うしっ!」 顔をペチペチと叩いて気合を入れ、キッチンへと移動する。 キッチンの入り口にハンガーで架けてあるエプロンを身に着け冷蔵庫を開ける。 冷蔵庫からテーブルの上へ次々と使う食品を取り出していく。 「今日のテーマは『ザ・朝飯』だな」 オレはそう言って調理に取り掛かる。 まずは魚を魚用のコンロの網に乗せ火を付ける。 焼いている間に味噌汁を作る。 これに味ノリと漬物で『ザ・朝飯』の完成だ。 「野菜がないな……」 呟いてオレは冷蔵庫からほうれん草と卵を取り出し、ほうれん草入の玉子焼きを作った。 「……いい匂いがする〜」 ちょうど完成した時、匂いに釣られてルミナが起きてきた。 「おお〜っ! 美味そう〜!」 すぐにテーブルに並べられた料理に気がついたルミナは椅子に座り箸を持ち、 「いただきま〜んにゃ!?」 食べようとしたルミナの顔を鷲づかみにする。アイアンクローってやつだ。 「おはようルミナ」 顔を掴んだまま笑顔で言う。 「お、おはよう……ナオ」 それを聞いて手を離す。 やっぱり朝は挨拶からだよな。 「……もう食べてもいい?」 「ああ、いいぞ」 「いっただきま〜す!」 ルミナはすごい勢いで食べ始めた。 「ダディーもおはよう」 ルミナの頭から自分の分が置かれた場所へ移動したダディーにも声をかけた。 「うむ、おはよう。それにしても……コレはお前が作ったのか?」 テーブルに並んだ料理を見つめダディーが聞いてきた。 「ああ、料理は得意なんだよ」 「ほう。大したものだ」 そう言ってダディーも食べ始める。 ご飯の量はオレ達と変わらないらしい。何でも食べるし。 朝食を食べ終え歯を磨くと、家を出るのにちょうど良い時間になっていた。 「今日は昼前には学校終わると思うから、それまで大人しく留守番しててくれよ」 「は〜い。いってらっしゃ〜い!」 …………。 「どしたの?」 じっと見つめるオレに不思議そうに首を傾げるルミナ。 「いや……何でもない。いってきます」 昨日、あんなに駄々をこねていたルミナが、やけにあっさりと素直にオレを送り出す事に疑問を感じながらも、そのまま家を出た。 ☆ ☆ ☆ 「あ、おはようございます」 玄関を出ると、ちょうど咲嶋さんも出てきたところだった。 「おはよう。咲嶋さんも桜花学園なんだ?」 制服姿の咲嶋さんを見て尋ねる。 編入の手続きとかで一度学園に行った時に見た制服と多分一緒だ。 「そうですよ。今日から2年生です」 「オレもだよ。同い年だったんだね」 会話を続けながら歩き出す。 正直、咲嶋さんが同じ学園で、しかも朝偶然に会えた事はすごく嬉しい……というか助かった。 一度行った事があるとはいえ、アパートを探す時のように迷う可能性だってあった訳だから。 咲嶋さんに着いていけば確実に学園に行ける。 「着きました」 暫く歩くと学園に着く。 今まで通っていた学校と比べると、とてつもなく大きい。 「あそこでクラス発表してますよ」 咲嶋さんが言いながら指差した方を見ると、そこには沢山の生徒達が集まっていた。 オレと咲嶋さんもそちらへ移動する。 「……すっげぇ」 クラス発表の掲示板を見て思わず呟いた。 1学年に13クラスもある。前に居た学校は1学年に6クラスだったから倍以上だ。 そんな事に感動しながらも自分のクラスを確かめる。 「大坪……大坪……と、あったあった」 2年E組。 そこがオレのクラスだ。 クラスメイトの名前を確認すると、そこには咲嶋さんの名前もあった。 「同じクラスですね」 咲嶋さんは掲示板を見た後、オレの方に振り返りいつもの笑顔で言った。 「おーい、さくらぁーー!!」 叫びながら走ってきた少女はそのままの勢いで咲嶋さんに抱きついた。 「おはよっ! さくら」 「おはようございます。悠ちゃん。悠ちゃんも同じクラスですよ」 「マジ!? よかったよ〜」 抱きついたままそんな会話をする二人を見ると、とても仲の良い友達らしい。 ……そんな事より、あの勢いで抱きつかれたのに微動だにしなかった咲嶋さんにオレは驚いていた。 「ところで気になってたんだけど……」 悠と呼ばれた少女は咲嶋さんから離れると、今までの笑顔が嘘のように、キツイ表情になった。 元々釣り上がっていた目がさらに釣り上がり恐ろしいまでの迫力がある。 「コレなに? さくらと仲良さそうに見えたんだけど」 オレを指差しながら咲嶋さんに問いかける少女。 ……初対面の人間に対してコレ呼ばわりかよ。 なんて失礼なやつなんだ。 「大坪くんです。ウチの隣に引っ越してきたんですよ」 「へぇ〜……隣にねぇ」 言いながらオレを睨む。 「ただの隣人にしては仲良すぎない?」 今度はオレに対して言ってきた。 ていうか怖いんですけど……。 「色々世話になったから……」 少女はそれを聞くと咲嶋さんとコソコソ何か話し始めた。 とてつもなく居心地が悪い。 「あ――あっははははは!」 コソコソ話していたかと思うと少女はいきなり大声で笑い出した。 そのまま笑いながら近寄ってきた少女はオレの方をバシバシ叩きはじめた。 「あ、あんた世話になったって……ぷっ、ま、迷子だったの? 高2にもなって?」 「う…………っ」 いきなり少女にそんな事を言われて言葉を失ってしまった。 それで少女は事実であると確信したようだ。また、笑い始めた。 は、恥ずかしい! 「あはははっ、あ、ありえない……公園で何考えてたわけ? 迷子になって、立ち尽くしてる高校生って」 「う、うるさいよ……」 「僕迷子になっちゃった、誰か助けて〜って。あっはははは! ちょ、勘弁してくださいよ大坪さん! 大坪さーーーん! あははははは」 自分で言ってお腹を抱えて笑い出す少女。 コ、コイツ、なんて酷いやつなんだ! ……さすがに傷つくぞ。 「悠ちゃん」 咲嶋さんが嗜めるように声をかけた。 「ごめんごめん……ぷっ」 咲嶋さんに謝りながらも笑いが堪えきれないといった様子の少女。 謝る相手が違うんじゃないか? 「さ、さいこうだよアンタ。あたしは こ、こんな奴と仲良くなんて出来ないっ! 普通ここまで笑うか? 「須藤さんね……オレは大坪公也」 でも相手が名乗ったし、一応オレも名乗る。 「須藤さんなんてやめてよ気持ち悪い。悠でいいわよナオヤ」 いきなり名前で呼びますか? まぁ、これまで接してきて普通じゃない子だとは分かったけど……。 「じゃあ私もさくらでいいですよ」 咲嶋さんも突然会話に入ってきた。 咲嶋さん……いや、さくらの笑顔はとても癒される。 『全校生徒の皆さんは体育館に集まってください』 その時、そんな放送が流された。 「行きましょうか。案内しますよ」 「ありがとう……さくら」 今まで咲嶋さんと呼んでいたからか、名前で呼ぶのが少し恥ずかしかった。 「ちゃんとついて来て下さいね。迷子になっちゃいますからあははははっ!」 コノヤロウ……。 体育館に着くまでオレは悠にからかわれ続けた。 もしかすると悠はオレの天敵かもしれない。 |