なんとか平常心を取り戻した悠はオレ達を席へと案内するとメニューを置いて店の奥の方へ消えてしまった。
 席へ案内されるまでショウはずっと話しかけていたが全て無視されていた。
 多分、他人の振りでこの場を切り抜けようとでも思っているんだろう。
 だけどそれは……ここにいるのがオレとルミナだけならまだしもショウが居る限り無理ってモンだ。
 店内を動き回るメイドさんに携帯のカメラを向けて必死に撮影しているショウに呆れつつオレは悠が置いていったメニューを開いた。店に入ったからには何か頼まなきゃ悪いだろう。
 メニューにはメイドさんが飲ませてくれるとか食べさせてくれるとか普通のメイド喫茶にありそうな物が大半だった。
 ただ、本格的な料理やコーヒーが売りの一つでもあるらしい。メニューの端っこに調理場の従業員の経歴なんかが書いてある。料理、デザート、飲み物、それぞれに専門の経験を積んだ人材を揃えているらしくメイドさんは単にひとつの要素でしかないみたいだ。
 これだけの人材が居れば普通のレストランとして十分やっていけると思うんだけど……オレだけか?
 というか、ショウが言っていたし、実際メイド姿の女の子達が居るからメイド喫茶だと思っていたが、どうやらそうじゃないようだ。日替わりで衣装が変わるとメニューにも書いてある。
 ……巫女服やら妹系やらと様々なものがあるらしい。
 何かスクール水着とかキワドイ感じの文字も見えた気がしたけど……。

「――って、なんだとぉぉぉ!?」
「どしたの〜!?」

 デザートのメニュー欄を見ていたオレはある物をみつけて思わず叫んだ。そんなオレを不思議そうに見たあと横から覗いてくる。
 オレの持つメニューには、こんな料理名が記されていた。

『じっくりコツコツ煮込んだプリン』

 ど、どういう事だよ?
 プリンはそれだけで完成された物じゃないか。それを何故煮込む必要があるんだ?
 まさか世間ではプリンを煮込む事は常識なのか……いや、ありえないっ!
 つーかコツコツって何だよ、少しずつゆっくりとってイメージだけどコトコトとどう違うんだ?

「おぉ〜、アタシこれにす――」
「やめてくれ……」

 それを見てすかさず注文しようとするルミナを止める。
 絶対に触れてはいけない気がしたんだ……。

「あの、すいません」

 近くに居たメイドさんを呼び止め、無難に飲み物だけ注文しておいた。
 
「この店最高だぜっ! 毎日でも通いたいくらいだ」

 ショウはニヤニヤと携帯で写した画像を見ながら呟いていた。
 ……正直気持ち悪いと思う。悪いけど一緒の席にいるのが恥ずかしいぐらいには。

「お待たせ致しました、ご主人様」

 頼んだものを持ってきてくれたのは悠だった。
 とびっきりの営業スマイルだ……だけど早く帰れってオーラが感じられる。
 
「ぐふふふふっ、須藤がメイドね〜」

 言いながらショウが悠に携帯のカメラを向けた。
 その時だった――
 
「ご主人様。勝手に撮影されるのは皆さんの迷惑になりますわ」

 と言いながらショウの携帯を奪った悠が曲げてはいけない方向に携帯を折り曲げた。
 
「ちょっ、おま――」

 ショウの顔が青ざめる。
 焦ったように悠の手から携帯を奪い返すが時既に遅し。
 ショウの携帯は完全に壊れていた。
 それを見ていた他のメイドさん達から歓声が上がる。
 ……やっぱり皆迷惑してたんだな。

「お前っ、客に対して何してくれてんだよ!」

 立ち上がり悠に掴みかかる勢いで怒るショウ。
 
「申し訳御座いません。ご主人様」

 悠の背後から突然現れた女性は穏やかな笑顔で謝ったあと、こう言い放った。

「ですが、この子はツンデレですので……」
「て、店長っ!? 何言ってるんですか!」

 悠の言葉からして、この女性は店長らしい。
 他の子達と同じくメイド服だが他の子のメイド服とは違い、スカートの丈が長く落ち着いた雰囲気で大人の女性といった感じ。
 その店長さんの言葉に他の客席から「ツンデレなら仕方ない」と呟きが聞こえる。
 ……てか、そんな事で許されちゃうんだ。

「くっ――ツンデレじゃ仕方ないじゃないか……」

 ショウもそう言って項垂れる。
 
「あたしはツンデレじゃないっ! 店長も何言ってんですか!?」
「悠ちゃんは立派なツンデレじゃない」

 激しく反論する悠の言葉を穏やかな表情のまま受け流す店長さん。
 
「ね〜ね〜ナオっ」
「なんだ?」
「つんでれって何?」
「悠みたいな奴の事だ」

 オレはルミナの質問に対し悠を指差しながら答えた。

「だからツンデレ違うっ!!」

 ――すかさずツッコまれたが。
 真っ赤になって怒る悠……これ以上からかうと本気でキレそうだ。

「くそぅ! ツンデレじゃ――」
「違うっつってんでしょ〜がっ!!」
「がはっ……」

 そんな悠の様子に気付いてなかったショウが言葉を発した瞬間、悠の右ストレートがショウのこめかみに思いっきり突き刺さった。
 そのまま後ろに倒れこみ気絶するショウ。 

「店長。コレ、ゴミ捨て場に捨ててきます。それとあたしはツンデレじゃありませんからっ!」

 そう言って悠はショウを引き摺って店の奥に消えて行った。


 ☆ ☆ ☆

 その後、店を出たオレ達は必要な物を買うために生活用品売り場へ向かった。
 ……勿論、ショウがその後どうなったかは知らない。多分ホントにゴミ捨て場に捨てられてるんだろうけど。
 店を出る時、「また遊びに来て〜」なんて言われるほど何故かルミナと店長さんは仲良くなっていたから、また来る事になるんだろうな。悠には嫌がられそうだけど……。
 調理器具が並べられた区域に辿り着き、様々な鍋の前で悩むオレ。

「う〜ん、奮発して買ってしまおうか……」

 オレの目の前にあるのは取っ手を付け替えるだけで何種類もの大きさの鍋に出来るアレだ。
 ルミナが壊した鍋はひとつなんだけど……ウチにはそれともっと大きいのがひとつしかないからコレがあると色々便利なんだよな。

「ナオ〜、アタシはコレが欲しいぜー!」

 そう言ってルミナが指差したものは、

「なんに使うんだよ……」

 業務用の大鍋だった。
 本当に何に使うんだよ……てかお前料理とかしないだろ。プリン煮込んで爆発させただけじゃないか。

「え? これなら沢山プリン煮込めるよ?」

 煮込めるよ? 
 なんで疑問系なんだよ。コイツ懲りてねぇのかよ。

「だから、プリンは煮込むものじゃありませんっ!」
「えぇっ!?」
「つーかさ、コレ言うのも、お前のそのリアクションも二回目だからな。過剰なボケは逆効果だぞ」
「なるほど〜……さすがナオだねっ!」

 あれ?
 なんでオレ達は笑いについて語ってるんだ?
 いや、褒められてちょっと嬉しかったとか無いんだからなっ!

「おぉ、ツンデレだね!」
「人の心を読むなっての! ていうか、もうツンデレについて理解したのか?」
「うん! 店長さんが教えてくれたんだぜー!」

 なんかルミナとあの人をこれ以上仲良くさせちゃいけないような気がする……。
 なんとなくだけど、絶対厄介な事になる気がするんだよな。

 その後、結局あの鍋を買って家に帰る事にした。
 途中、本屋でルミナが見ていたのが『プリン料理大百科』と書かれていたのは、きっとオレの見間違いだよな。


BACK←  目次  →第2章 2話へ