朝、甘ったるい匂いで目を覚ます。
 この匂いは一体なんだってんだ?
 部屋中に満ちている甘ったるい匂い。たまらず部屋から飛び出すが、そこも同じような匂いに満ち溢れていた。
 ――おそらく全ての部屋中に広がっているんだろう。
 オレは匂いの元凶――キッチンへと駆けつけた。

「あっナオ! おはようだぜー!」
「ああ、おはよう――っじゃなくて! 何やってんだ!?」

 そこにはルミナが居た。料理とは無縁だと思っていたルミナが……。
 ルミナは鍋を火にかけ、その中をかき混ぜていた。
 キッチンに立つルミナは初めて買い物に行った時に買った、色だけ違うオレとお揃いのエプロンを着ていた。

「何って料理に決まってるじゃん。それ以外に見えるならナオは病院に行った方がいいと思うぜー!」

 鍋をかき回しながらオレを見るルミナ。
 う……ルミナにまともな事を言われてしまった。
 若干落ち込みつつルミナの背後から鍋を覗きこむ――

「――って、何をやってんだぁぁぁ!!」

 煮込まれる鍋の中を見て、思わず叫んでしまった。
 
「お、お前は一体何を作ってるんだっ!?」
「えっ……じっくりコトコト煮込んだプリン?」

 なんだよっ、それは!
 じっくりコトコト煮込んだプリン? って、なんで疑問系なんだよっ!

「いいか? 良く聞けよ。オレは今から、ごく一般的な事を言うからな!」
「う、うん……」

 ルミナの肩を掴み真剣な表情で言うオレを見て、ルミナも少し驚きながらも頷く。

「プリンは煮込む物じゃありませんっ!!」
「え、えぇ――――っ!?」
「そこ、そんなに驚くところか!?」

 驚愕の表情をしているルミナに、項垂れてウンザリしつつもツッコむ。
 
「はぁ…………って、オイ!」

 溜息をひとつ吐いて顔を上げると、なにやら鍋から光が溢れていた。
 な、なんで……? プリンを煮込んでただけじゃないのか?

「あっ……失敗しちゃった」
「な、なにを失敗したんだよっ!?」

 焦るオレに対してルミナはのん気にそう言った。

「…………てへっ」

 ルミナが自分の頭を軽く小突き、舌を出すという実に古臭い仕草をした瞬間だった。

「なんでなんだぁ――――っ!!」
「みきゃぁぁぁぁぁ!」

 鍋から発せられた光が辺り一面を包み込み、そして爆発が起きた。
 

 ☆ ☆ ☆

 オレとルミナは、この街で唯一のショッピングモールへと向かっていた。ルミナが来た時、さくらに案内してもらってやって来た場所でもある。多分、この街で一番目立ち、そして一番人が集まるのもここだろう。

「あれ? ハムナリじゃないか!」
「…………なんだ、ショウか」

 名前を呼ばれ、そちらを見やると、そこに居たのは紛れも無くショウだった。

「なんだとは何だ! それが親友に対する態度かよ!?」
「いつ親友になったんだ?」
「ルミナちゃん、相変わらず可愛いねっ!」

 オレの疑問は全く聞いてないようだ。
 ルミナに声をかけながら、さりげなく両手を握りしめていた。

「ショウは相変わらずヘンタイだね♪」
「あははは、ルミナちゃんはキビシイなぁ〜」

 笑顔で酷い事を言ってのけるルミナにショウも笑顔で答える。が、オレには分かる。ルミナは本気で言っているのに対しショウは冗談だと思っているようだ。
 
「ところで何でここに――って、ここに居るって事は買い物だよな」

 ルミナの手を離したショウは言いながらオレに向きなおった。

「ああ……鍋とかね……」

 あの爆発のせいで鍋が使い物にならなくなってしまった。他にも色々被害があったし。

「鍋……? まぁいいや。お前も付き合えよ!」
「付き合うって……何に?」

 いきなりそんなことを言い出すショウにオレは当然な疑問を口にする。

「何って、知らないのかよ? 今日この街で初めてのメイド喫茶がオープンするんだぜ!」

 興奮気味に話すショウ。
 メイド喫茶って……それに付き合えって?

「メイド喫茶ってもしかしてあのメイド喫茶!?」

 興味を示したのはルミナだった。
 最近テレビでもよく取り上げられてるから存在は知っているだろうからな。

「そうだよ! あのメイド喫茶だ!」
「行ってみたいぜー!」

 ルミナも乗り気になってしまった。
 こうなってはオレに選択権なんて無いんだ……悲しい事に。
 オレは二人に引きずられるようにして、メイド喫茶へと向かうハメになってしまった。

 
 ☆ ☆ ☆

 ショウに手を引かれ、ルミナには背中を押されながらメイド喫茶への入り口へ足を踏み入れる。
 店内に入ると、すぐさまメイドさんがやってくる。

「お帰りなさいませ、ご主人さ――」

 オレ達を出迎えてくれたメイドさんが途中で固まってしまった。
 そんなメイドさんを見たオレ達も固まっている。

「な、ななな――――」
「す、すすす――――」

 メイドさんとショウがお互いを指差しながら次の言葉を発せずにいた。
 
「へぇ〜、これは中々……」

 オレはメイドさんを見て、こういうのも似合うんだなぁ、なんて感心していた。
 だって普段とあまりにかけ離れていたから……普段のコイツならショウに対しては挨拶の変わりにボディーブローぐらい当たり前にやってのける。
 そんな奴が飛びっきりの笑顔で「お帰りなさいませ、ご主人様」だなんて、そりゃ驚くのも当然ってもんだ。
  
「あれ? はるちんだ〜!」

 オレの後ろから顔を覗かせたルミナが空気の読めてない感じでショウを指差しているメイドさん――悠に声をかけた。


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