| リルがやってきてから一ヶ月と少したち、そろそろ梅雨に突入しようかという時期になっていた。 一ヵ月もあれば、リルがさくらとの生活や学園に慣れるのには十分な時間だ。 オレもルミナとの騒がしい生活に既に何も疑問を感じない程になっていた……というかそれが今のオレにとっての日常だから仕方がないだろ。まぁ、リルがウチに遊びに来た時にルミナとたまに喧嘩するのには、正直まだ慣れないけど……。 というかあんなのに慣れたらさすがにヤバイだろ……、毎回家がメチャメチャになるし。 リルがさくらの家に住み始めた頃に聞いたんだけど、実はさくらの料理の腕は恐ろしい物らしい。これは本当に意外だった……さくらに初めて会った時も食材を入れた袋を持っていたし一人暮らしだし、普通に出来るものだと思ってた。 リル …………どんなだよ、それ。 てな訳で今さくら家で家事をこなしているのはリルだった。 よく買い物中に会うがリルの買う物を見ると栄養にもちゃんと気を遣っているのが良く分かる。 ……ルミナにも見習って欲しいもんだな。 そんな訳で今日も買い物に来たらリルも居た。 「よう。今日は何か良い物あるか?」 オレはリルに近づき声をかけた。 「あっ、ナオヤさん! 今日はもうすぐお肉のタイムセールがありますよ!」 「マジか!? それは是非買わなきゃな、リルもいるよな?」 「はいっ! お願いしてもいいですか?」 「ああ、任せときなっ!」 「ありがとうございます」 そう言ってリルは頭を下げた。 タイムセールはハッキリ言って戦場だ。 狂戦士と化したオバちゃん達に小柄なリルでは太刀打ち出来ない。だからいつもオレがリルの分まで取ってくるんだけど……。 リルはルミナ以外には礼儀正しいし良い子なんだけど、こんな事ぐらいでここまで感謝されるとどう反応していいのか少し困る。 「いいっていいって。ついでだし、困った時はお互い様ってね」 「はい、どうもですっ!」 『只今より牛肉300グラム入り1パックが――なんと90円!!』 その時、店内にそんなアナウンスが響き渡った。 安いっ! 100グラム30円じゃないか。 この店は大丈夫なのか? ――なんて考えてる場合じゃない、オレも早く行かないと。 「じゃあ行って来るな!」 そうリルに告げ走り出す。 向かうは肉売り場、周りのオバちゃん達も狂ったように走り出す。 すぐに肉売り場は見えてきた……だが、本当の戦いはここからだ。 「うおぉぉぉぉぉ!!」 タイムセールの品物に群がっているオバちゃん達へオレは突っ込んでいく。 「ちょっとアンタ退きなさい!」 「あっ! ソレ私が取ったのよっ!」 「肉ぅぅぅぅぅ!!」 そこは、まさに戦場だった。 押し、押され、罵りあい、皆が肉を目指し戦っていた。 「その肉もらったぁぁぁ!!」 オレは突っ込む時に比較的人の少ない場所を選んでいた。 そして力任せにオバちゃん達を押し退けて前へ進む、なんとか肉が見える位置まで辿り着き、オバちゃん達が押し合った時に一瞬だけ出来た隙間から腕を伸ばし肉の入ったパックをふたつ掴み取った。 だけど、ここで安心するのはまだ早い。何故なら、この集団から抜け出すまでに掴み取ったはずの物を掠め取られるなんて事が良くあるからだ。 ――ここに居る狂戦士達には常識なんて通用しないんだ! オレは肉のパックを両腕で抱きかかえ必死に抜け出した。 「はあ……はあ……」 抜け出した時、オレは息が切れるほど疲れていた。 それほどまでにタイムセールというのは大変なものなんだ。 「お疲れ様です!」 すぐ 「はいコレ」 オレは戦利品の肉1パックをリルに渡す。 「ありがとうございましたっ!」 受け取るとリルは満面の笑みでそう言った。 ……それだけで苦労したのも、まぁいいか、と思えてくる。 二人揃って会計を済ませ店を出る。 「それにしても毎回凄いですよね……」 帰り道、リルが苦笑しながら話しかけてきた。 「タイムセールか?」 「はい」 「確かにな……あの人達のどこにあんなパワーがあるんだろう」 「あはは、イキナリ人が変わったようになりますもんね」 本当にそんな感じだな……。 「それより最近さくらとはどうだ?」 「いつも通りですよ〜。最初は怖かったですけど、そんな事ありませんでしたし……たまに朝起きるとキッチンで料理しようとしてる事があるのが怖いですけど」 と、最後の方は本当に怯えたように震えていた。 マジでさくらの料理って……どういうものなんだ? 「ナオヤさんはどうなんですか?」 「……どうって?」 「あの……その……ルミナと」 「ルミナ? 全然いつも通りだよ。意味不明な事ばっかりするし、家事なんてロクに手伝わない……どころか首にぶら下がってくるから邪魔だし。少しはリルを見習って欲しいよな。ルミナと交換される気ない?」 「ボ、ボクがですかっ!? え、えっと……その……」 「ははは、何て言ったらルミナとさくらに殺されそうだな……って、どうしたんだ? 顔、真っ赤だぞ」 そこまで言って視線を少し下げると、そこには顔を真っ赤にしているリルが居た。 「な、なんでもないですっっ! ホントにっ!!」 リルは首をブンブン振りながら焦ったようにそう言った。 ☆ ☆ ☆ 「それじゃ、今日はありがとうございましたっ!」 「だからそんなに気にする事無いって……、じゃあな」 「はい」 アパートに辿り着きリルと別れの挨拶を交わした後、部屋の扉を開けて中に入る。 「ただいま〜」 靴を脱ぎながら帰ってきたことを知らせる。 「お帰りだぜー!」 「ご苦労だったな」 すぐさまオレの声を聞いたルミナが頭にダディーを乗せ玄関までやってきた。 「今日は肉が安かったからな。豪勢に行くぜっ!」 オレは買い物袋を掲げて言った。 「肉だぜ――――っ!!」 「牛か……私は鳥の方が好きなのだがな」 ルミナは嬉しそうに叫んだ。 ダディーは……何と言うか、その……やっぱり共食いにしか思えないから。 「じゃ、早速作るからな」 「おぉ〜っ!」 キッチンに向かうオレの首にいつも通りルミナがぶら下がってきた。 「邪魔だからぶら下がるな! つか、たまには手伝えよ」 「アタシはナオの料理に愛を注いでるんだぜー!」 ……なんだよそれ。 まぁ、いつもの事か。 そう思いながらオレはルミナをぶら下げたままキッチンへと向かった。 |